第8章 【外伝 鉄壁とエンノシタイモウト】
縁下美沙は身じろぎするがまだ青根が手を離していなかったので幸い二口はハンカチでひっぱたかれる心配はなかった。寧ろそれをわかっていたから言った節もある。
「というがお前がやっぱ変だわ。」
「多少自覚がありますがそんなに常識外れですか。」
「半分ボケって言われてんだろ、ぴったりだ。」
「きっつ。茂庭さんは大変やったやろなぁ。」
「何か言ったか。」
「いえ別に。」
こいつと二口は思う。ここで青根が二口と呟いた。
「いじめてんじゃねーよ、別に。」
短い中に込められた意味を汲み取って二口はモゴモゴと言った。急に顔が熱くなってくる。突っ込みを入れたりしていたせいか。とりあえずこのエンノシタとか言うのの妹は変だと二口は思う。さっきからろくに目を合わせないくせに青根を怖がらずに普通にやりとりして俺にも何気に言い返してきて結構凄え身の上も平気で語って何なんだこいつ。二口がグルグル考えている間に縁下美沙があ、と呟いた。
「お腹減った。」
二口はずっこけそうになった。
「お前何だっマイペースかっ。」
「いや知らん、もとい知らないし減るもんは減るし。」
「あともうめんどくせーからとっとと関西弁でも何でも喋りやがれっ。」
「いいんですか。」
縁下美沙は青根にも目をやる。青根が頷いたのですぐ決まったらしい。
「ほなお言葉に甘えて。あ、そういやうっかりしとった、良かったらお名前を。嫌ならいいです。」
「いちいちこまけーな。」
「青根、高伸。」
「よろしゅう。」
縁下美沙はそっと出される青根の手を握り、密かに青根の顔が赤くなる。何照れてんだよ青根の奴そんな地味系にと二口が思っていたら縁下美沙がこちらを振り返る。
「二口堅治、現主将。」
「ああ、茂庭さんの後継ぎはったんは貴方でしたか。」
「おう。」
ここで二口はずい、と縁下美沙に顔を近づけた。当の縁下美沙は顔を背けようとしたが二口はその小さな頭を押さえつける。思うところがあった。青根の視線に気づいていじめるんじゃねーよと返してから二口は肝心の話に入る。
「お前さ、茂庭さんと話したことあるつってたな、あの人はお前の事何て。」
「モロに"天然にも程がある"と。」
「あの人らしいな、そーだろうよ。」
「えと」