第8章 【外伝 鉄壁とエンノシタイモウト】
「茂庭さんに言いつけたる。」
「何っ。」
「バレーボール部の人やったら、の話やけど。」
関西弁だった。それはともかくとしても二口としてはそもそも気になる所がある。
「お前っ、茂庭さん知ってんのかっ。」
二口は思わず足を止めてバッと振り返った。
「ちょいとだけお話した事が。」
「お前何モンだよっ。」
「そちらとインハイ予選でやりあった烏野の1年です。」
烏野だと、と二口は眉間にしわを寄せる。インハイ予選で烏野に敗れた事は記憶に新しい。
「あっちのバレー部にお前みたいなのいたか。」
「バレー部にいるのは兄です。私は所属してません、その辺にいる普通の動画投稿者です。」
「どこが普通だ、どこが。」
「絵が下手で再生数少なくてコメントもろくについてなくてランキング圏外が基本なので。でもさり気なくリピートしてファンになってくれてる人達も少数います。」
二口はブチッときた。茂庭の後を継いで主将になったとは言えまだまだ修行が足りないのかもしれない。
「うっるせーっ、そもそも動画作って投稿なんてーのが普通じゃねーよっどんな基準してやがんだっ。お前馬鹿か、馬鹿なのかっ。」
「馬鹿というより半分ボケとよく言われます。」
「ああそうだろうよっ、ったく面倒臭ぇっ。」
わあわあ喚いたせいで二口はさすがに息が切れてきた。肩を落として息を整えている間に青根がさり気なく呟く。
「兄。」
「えーと、」
女子は肩から下げているガジェットケースをゴソゴソしてスマホを取り出した。しばらく操作していていたかと思えばこれ、と画面を青根の方に差し出す。
「この人が兄です。」
画面をじっと見つめる青根、二口も横から覗きこむ。思わずぶっと吹いた。
「七三分け、今時、しかも超地味っ。こんな奴烏野にいたか、存在感ねぇなおい。」
笑い出す二口に対してたちまちのうちに女子がむっとする。
「うちの兄さんを悪く言わないでください。」
しかし二口はどうしても笑いをこらえることが出来ない。女子の機嫌が急降下して二口を睨むレベルになった所で青根が口を挟んだ。
「顔が違う。」
ああ、と女子はパッと普通の表情に戻って言った。