第8章 【外伝 鉄壁とエンノシタイモウト】
伊達工業の男子バレーボール部現主将である二口堅治は何だこれといった顔でその光景を見ていた。
「落としたぞ。」
ぶっちゃけ強面の仲間、青根高伸がボソリと言い拾ったペン―多分スマホ用のタッチペンとボールペンが一緒になった奴―を目の前にいる細っこい女子に渡す。
「あ、すみません、ありがとうございます。」
女子の方は顔を赤くしヒョロヒョロの小さな手を伸ばしてそれを受け取り肩から下げている布製のガジェットケースにそれを収める。それから2人はしばし沈黙する。あまりに続くので女子の方が首を傾げた。青根が重々しく口を開く。
「どこかで見た、気がする。」
「はて、私は初めてお見かけしました。忘れてたらすみません。」
「いや。」
またも沈黙がすること数秒。
「だああああっ、辛気(しんき)臭ぇっ。」
はたで見ていた二口はたまらず叫んだ。驚いたのか女子の方はうわっと叫んでこちらを振り向き、青根の方は顔色はあまり変えずに振り向いた。
「どうした。」
やはり静かに言う青根に二口は背後にうがあっという効果音をつけたくなるような勢いでまくしたてた。
「どうしたもこうしたもあるかっ落としもん拾って渡すだけでどんだけかかってんだしかもちょいちょい黙りやがってサイレントかっサイレント映画かお前らはっ。」
「私、サイレント系の白黒アニメとかクレイアニメとか好きです。」
「きーてねーよっ、天然かっ。」
「また他所様に天然呼ばわりされた。」
「されてんのかよっ、無理もねーなっ。」
「二口、騒ぐのは良くない。」
「そもそもお前のせーだっ、青根っ。」
言う二口に青根はそうなのかと言いたげに首を傾げ、密かに女子の方も青根さんてもしやと呟いているが二口はそちらには気づかない。
「ええい何でもいい、もう用は済んだんだろおら、行くぞ。」
二口は青根を引っ張り、青根は頷く。
「じゃあな、ボケボケ女。」
苦虫を噛み潰したような顔で二口は女子に言った。じゃあなで済ませておけば良い物を一言余計だ。
「なっ。」
当然抗議の声をあげようとする女子、青根がそれは良くないと言いたげに二口を見るが当の二口はお構いなしに歩き出す。しかし女子はボソリと聞き捨てならない事を言った。