第7章 【撫で撫でされた話】
「べ、別に何もないであります。」
「どう見ても何かあるで。」
「いやその、あのね」
谷地は笑いをこらえきれない様子で言った。
「いつも縁下さんが美沙さんのお世話焼いてるとこばっかり見るから人のお世話焼いてる美沙さんが久しぶりかつ新鮮で。」
「ちょっ、そらないで谷地さんっ。」
美沙は思わず声を上げ、しかし5組の連中も笑ってこっちを見ていることに気づきたちまちのうちに顔が熱くなった。影山は美沙に撫でてもらったのが効いたのか及川の為にイライラモヤモヤしていたのはおさまり、しかしままコに慰められてしまったとそっちでぐぬぬとなっていた。
さらに放課後、男子排球部の部室での事だ。
「縁下さん、」
「どうしたんだ、影山。」
「その、ままコって優しいんですね。」
「ハハ、今更どうしたんだ。前から冷たい奴じゃないだろ。」
「それはそーなんすけど、その」
影山はごそごそ着替えながら呟く。
「いつも縁下さんが面倒見てるとこばっか見るんでたまにままコに慰められたりすると不思議っつーか。」
「あいつはそういう奴だよ。というか俺らはお互いそんな感じかもな。」
「それもわかる気はします。でも、とりあえず、その」
急に顔を赤くし出した後輩に縁下力はどうした、と尋ねる。影山は唸るような声で答えた。
「ままコに背中撫でられるのは、ちょっと。」
「え。」
たちまちのうちに力の目から光がなくなった。
「あの馬鹿。」
「あいつ手えちっせえし、何かそぉっとやってくるんでくすぐってえっす。」
「影山もそういう問題なの。」
力はやれやれとため息をついた。
その後部活が終わってからいつものように図書室で待っていた義妹と合流した力は事の次第を聞いた。美沙が影山を撫で撫でするに至った原因が及川にあるとわかり、ため息は更に深くなった。
次章に続く