第7章 【撫で撫でされた話】
「遠慮せんでも呼んでほしい時は縁下おるかでええのに。」
美沙は笑いながら言ったが笑い方がその義兄に似ている事には気づいていない。
「どうしても縁下さん呼び捨てしてるみたいで落ちつかねーんだよ。だからって、その、名前で呼ぶのも何か」
「影山君照れ屋だもんね。」
「う、ぐ、別に。」
谷地に笑って言われて影山はまた顔を赤くする。
「ほんで結局アンタどないしたん。」
美沙が話を戻すと影山はズボンのポケットをガサガサした。何となくやな予感するなと美沙は思う。案の定取り出されたのはスマホだった。
「及川さんがメールで何か寄越して来たんだけど、写真じゃねーみたいで開けなくてよくわかんねえ。」
谷地が何とっと声を上げ、美沙はしゃあないなぁと苦笑する。
「またあの人はあの人で何してはんの。」
こういう時の美沙はその義兄といる時とは違い、急に世話焼きな女子といった様子になる。
「因みに及川さんはメールに何か書いてはるん。」
「別に。あげるとしか書いてねえ。」
「及川さんらしいって事でいいのかなぁ。」
谷地が乾いた笑いをした。無理もない。
「ほんましゃあない人やねぇ、ちょお見せて。」
影山は頷いてスマホを操作し、問題の添付ファイルを美沙に見せる。美沙は思わず呟いた。
「及川さん、何か操作ミスでもしはったんちゃうか。」
「どうして。」
「拡張子がzip、圧縮ファイルやん。」
「あ、本当だ。パソコンから送ったのかな、まさかね。」
美沙と谷地だけが理解している様子に影山はむすっとする。
「えーと申し訳ないんやけどあんたの事やから細かい事言うても」
「わかると思うのか。」
「キリッてな顔で言いなっ(言うなっ)。もう、兄さんや菅原さんはどないしてるんや。それよりアンタこれ素直に及川さんに返事してスマホで開かれへんファイル来てます、確認してもらえませんかって言うてみ。」
「お、おう。」
影山は言われたとおりにした。影山がメール送信してからしばし。