第6章 【兄シャツ】
「静止画だけ。他に流すの禁止、特に及川さんと赤葦さん。」
「及川さんにわざわざお前の萌えポイントを教えるつもりはないよ。でも赤葦君は何で。」
「万一また会(お)うた時絶対おちょくられる。ままコさんは路線変更でも始めたんかって。」
「お前なかなか想像が働くね。」
「兄さんも多分言われるで、妹を着せ替え人形にするてもう末期症状やって。」
「それは困るな。」
力は微笑みベッドにペタンと座ったままの義妹の手を取る。義妹は顔を赤くしてそぉっと力を見上げる。
次の瞬間響いたのはスマホカメラのシャッター音だった。
次の日の昼休みである。
「縁下ー、何ニヤニヤしてんの。」
1人校舎裏で昼食を終え、スマホの画面を眺めていた力の所へ菅原がやってきた。
「いえ別に。というかニヤけてましたか。」
「うん、思い切り。」
「俺も美沙の事言えませんね、もう少し気をつけないと。」
「いいんじゃない、どうせ似たもん夫婦だろ。」
「菅原さんっ。」
声を上げる力に菅原はニッと笑う。
「で、その写真はなんなの。」
力はギクーッとした。
「い、いえ別に。」
「隠すなよ、つーか見えてんぞー、美沙ちゃんの彼シャツ姿。」
文字通り飛び上がる力に菅原はアハハハと笑う。
「他には内緒ですよ。美沙には外に流すなって言われてますし。」
「喋る気ないけどさ、こんな面白い事。そもそもお前ら何してんの。」
「家に帰ったら美沙が彼シャツならぬ兄シャツで寝てまして。」
菅原は笑い転げる。彼のファンの少女達が見たら何と言うだろうか。
「笑い過ぎですよ。」
「だ、だって、何だよその家に帰ると妻がなんたらみたいなノリ、アハハハっ。」
「必ずやってませんから。むしろ公園に巨大な魚が捨てられてたくらいのレアさですから。」
「何それ。」
「深く聞かないでください。」
美沙がたまに口ずさむ電波ソングからつい引っ張り出したネタだが流石に解説するつもりはない。
「何にせよホント愛されてんなー。」
笑いすぎて浮かんできた涙を指で拭いながら菅原は言った。
「相手が縁下じゃなかったら絶対こんな事しないぞ、この子。」
違いない、と力は苦笑した。
次章に続く