第6章 【兄シャツ】
またお兄ちゃんと言われた。こいつは何も意識せずに人を喜ばせる事が得意なのかもしれないと思う。当の本人はふぎゃあっまたやってもたと叫んでいるが。
「お前に優しい人は他にもいるだろ。菅原さんとか田中や西谷もお前の事気に入ってるし成田や木下も何気に気にしてくれてるし、あと、その、及川さん、とか。」
何故か美沙を気に入り力と美沙の関係を知った上で美沙にちょっかいをかけてくる青葉城西の主将の名を出すのは気が進まなかったが一番わかりやすい例なのが辛い。
「うん、こっち来てから何かようわからんけどみんな親切。せやけどそれとはちゃうねん。」
「どう違うの。」
更に力は尋ねてみる。美沙は私、と話を続けた。
「最初に兄さんに会(お)うた時思(おも)てん、この人めっちゃええ人なんやなって。今頃こんなでかい妹出来るって話になって冗談やないって思た事もあるやろに普通に話してくれて。」
「うん。」
甘えたモードから切り替わってしまったのかお兄ちゃんからいつもの兄さんに戻っている。やや不満だがそこは今言うまいと力は思う。
「ほんで一緒に住むようになってだんだん見えてきて、も一つ思った。」
「何を。」
「兄さんはただ一瞬一瞬親切なだけやのうて、あかん事はあかんてちゃんとわかっててでも人それぞれちゃうのも考えててそこがええとこですごいとこなんやって。」
「褒めすぎだろ。」
「ちゃうもん。ほんで私の事も少なくとも妹やって思てあかん事はちゃんとあかんって言ってくれてホンマに大事にしてくれてるんやって。そう思たらもうこの人が私の兄さんなんやって、この人が喜ぶんやったら出来る事はしたいって思た。兄さんへの好きから超えてたんはめっちゃ後で気づいたけど。」
ここで美沙は一息ついた。
「私ここ来るまで友達もおらんで親戚からも嫌がられとって、それでもまあたまーに親切な人がおるはおったけど一番近い歳でホンマの意味で優しかったんは兄さんやった。せやから」
言って自分にしがみつく美沙、ああ、と力は目を閉じる。やっぱり女の子で俺の一番はこいつだ。
「美沙、」
力は呟いた。