第6章 【兄シャツ】
完全に自分本位である。起こしてやるのを言い訳に実際は自分が触れたいだけだ。練習から一度逃げ出し、他所では存在を忘れられ、別にイケメンでもない自分を怪我をしてまで守ろうとし、こんな風に部屋に潜り込んでまで自分を欲する義妹に依存している。自覚はあるのだ。
しかし今それはいい。力は兄シャツ状態の美沙を抱きあげ、そのまま自分の腕の中に納める。背中をポンポンと叩いてやると体勢が変わった事に気づいたのかやっと義妹は目を開け始めた。
「ただいま、美沙。」
「ふぎゃ、あ、お兄ちゃん。」
久しぶりにお兄ちゃんと言われた。力は心臓が跳ね上がる心持ちだ。何だこれどこの漫画だ、家帰ったら可愛がってる妹が自分のベッドで寝ててしかも自分のシャツ着てて起こそうとして抱っこしたらいつもは兄さんって言う癖にお兄ちゃんとか言い出して。おかしいな、俺はそういうポジションじゃなかったはずなのに。考えている内に義妹は少しずつ覚醒したようだ。
「ふぎゃああああっ。」
とうとう力の耳元で叫びが上がった。
「急にでかい声出すなよ、耳痛い。」
「ごごごごめんなさい、せやけど、あ、あう。」
パニック状態の美沙は泣きそうである。
「遅くなったけどただいま、美沙。」
「お、おかえり。あのその」
何やら弁解しようとしている様子の義妹、とうとうベソをかきはじめて力は内心焦った。何故泣くのか。泣かなくてもいいのに。
「ごめんなさいホンマは本返しに来ただけなんやけどまた急に淋しなって勝手な事してもてお願いやからポイせんといて。」
早口で言い更に泣く美沙に力は馬鹿かと思う。このごに及んでまだ俺が捨てるとか何とか思ってるのか。
「お前ねえ」
力は苦笑してため息をついた。
「何でそうなるんだ。俺も大概過保護とかもっと妹信用しろとか言われてるけどさ、お前ももうちょい俺を信じてくれよ。」
「う、ごめ、」
「はいはい、そこは謝らない。」
力は美沙の頭をクシャクシャと撫でてふと尋ねる。
「そんな萌えシチュ的な事してまで俺の事が好きかい。」
美沙はうん、と頷く。
「大好き。」
「どうして。」
「お兄ちゃん優しいから。」