第35章 【三度目の終わりと少しの未来の物語】
「力さん」
「うん。」
「私、やっぱり死なんでよかった。」
「嬉しいよ。」
そっと美沙の相変わらず小さな手を取って力は呟く。
「俺も頑張って生きるから。」
その間に美沙の片手の指には細く光る輪がはめられる。
「成田さんに怒られるで、ちゃんとしたん買(こ)うたれ言うたやろって。」
はめられたものに目をやって美沙はクスクス笑う。
「ちゃんと今度の休み一緒に買いに行くから、その間だけ。」
力もまた笑って2人は抱き合ったまま寝床でコロコロ転がる。
夜は静かに更けていったが2人は決して離れようとしなかった。
そうして後日、元烏野高校男子排球部の関係者または元縁下兄妹と関わりのあったその他の連中にとある通知が届く。
「ぬぅわにいいいいいっ。」
坂ノ下商店にてすっかりモノホンのおっちゃんになった烏養繋心が椅子から転げ落ちそうになる。
「おやおや、やはりなっちゃいましたか。」
力達が在籍時排球部の顧問だった武田一鉄はニコニコしている。
「だだだ大地っ、縁下がっ美沙ちゃんがっ。」
東峰旭は動揺して澤村大地に音声通話をかけている。
「今更狼狽(うろた)えるな、相変わらずかこのヒゲチョコ。高校ん時からわかってた事だろ。」
澤村は東峰に容赦なく言ってから微笑む。
「おおー来たぁ、やっとかよぉ。長かったなぁ、ちくしょう。」
菅原孝支は1人感慨にふけっている。
「影山っ、葉書きたかっ。」
「お、おう。でもままコと縁下さんいつの間に。」
「お前馬鹿だろ。」
「てめーも本当は気づいてなかっただろ日向ボゲェッ。」
日向翔陽と影山飛雄は相変わらずのやりとりをしている。
「ツッキーツッキー、とうとう来たねっ。」
「ちょっと、いい歳してその呼び方やめてくんない。ま、予想通りだよね。」
「ツッキー、嬉しそうだね。」
「山口うるさい。」
山口忠と月島蛍はぱっと見だと温度差のある反応をしているが月島は密かに笑っている。
「縁下、美沙ちゃん、良かった。」
清水潔子は静かに微笑んでいる。
「お母さんっ、見てっ。縁下さんと美沙さんからっ。」
「やっぱり縁下君はあの時お嫁さん貰ったも同然だった訳ね。でも良かった。」
谷地仁花と谷地円は親子で喜んでいる。