第32章 【義兄妹、事後報告】
「ばあちゃん。」
美沙の視界がぼやけ始めた。力が美沙と呟きテーブルの下でこっそり美沙の手に自分の手を重ねておまけに握りしめる。ぼたぼたと大粒の涙をこぼす美沙、祖母の事で久しぶりに泣いた気がした。亡くなった当初はあまりの事に涙が出てこなかったのだ。顔が固いのはこういう時面倒で母方の親戚は祖母が亡くなったというのに薄情だの流石あのばあさんの孫だの好き勝手を抜かした。最後には経済面的な意味も含めて当世風でない厄介な娘などいらないと美沙をそのままにし、実は美沙も美沙で死にたくなかったくせにそこまで言われるのなら世話になりたかないとうっかり言い切った訳だが。
声もなく泣き続ける娘に縁下夫人も席を立ちいつかのようにぎゅっとその肩を抱きしめて言った、間違いなくおばあさんは美沙を愛していたと。
美沙は黙って何度も何度も頷いた。
そうして兄妹は二階へ引き上げる。
「疲れた。」
ベッドにぼふっと倒れ込んで美沙が言った。ここは美沙の部屋である。
「ホントにお疲れ様。」
その横に座り込んで力は美沙の頭を撫でる。
「兄さんこそ。」
「俺はいいよ。」
力はいいながら結局自分も美沙の横に寝転がる。
「良かった、本当に。」
力は本心から言って両腕を義妹に伸ばす。本当に良かった。自分はここしばらくで一番の恐怖から解放されたのだ。一方力の手が捕まえる前に美沙が自分からその腕の中に飛び込んできた。勢いあまった力はおっとと呟いて美沙を抱きかかえたまま体勢を整える。危うくベッドから落ちるところだった。ふと見れば美沙はそんな力のシャツをギュっと掴んで離さない。
「今日はまた随分と甘えただな。」
「だって」
「うん、無理もないのはわかる。というか俺だって怖かった。お前が連れて行かれるかもって今度こそ本気で思ったからな。」