第31章 【義兄、危機一髪】
「お父さん、やっちゃん繊細なんやからやめたげて。」
呟く美沙に実父はしれっと流した。力はなるほどやっぱりこの人は美沙のお父さんだなと確信した。
結局そのまま美沙の実父は時間割いてくれてありがとうと本当に去っていった。後に残された縁下兄妹と男子排球部の面々はその後ろ姿を見送ってから自分達も歩き出した。
「でもあれホントに美沙さんの親父さんだったのか。」
歩く道すがら木下が首を傾げる。
「あ、俺も思った。全然似てなかったよな。」
「あとどっちかっていうとイケメンだったわね。」
成田が言って珍しく清水も話に加わり、聞こえていたハイテンション組が潔子さんが喋っとるとパアアと無駄なレベルで顔を明るくする。
「まぁ確かに顔は全然美沙と似てないけど」
力は呟いた。
「ノリが似てる云々は置いといて本当に本当の親父さんだと思うよ。」
「どうしてよ。」
尋ねる木下に力は言った。
「手の爪の形とあと指の形がそっくりだった。」
一同は一瞬沈黙する、美沙ですらも。
「よくそんなとこ見れたな。」
成田がポツリと言い、当事者である美沙も細っこく小さな自分の手を見つめて首を傾げている。
「そない似とった、兄さん。」
言う美沙に力はそっとその片手を取る。
「爪のこの辺の形と指の骨のこのカーブが特に。」
美沙はうーんと唸りしかしすぐにまぁええわと呟く。相変わらず意外と切り替えが早い。
「それよりさ」
ここで木下がニヤリとした。
「もーお前言い逃れ出来ねーな。」
「何がだよ。」
「美沙さん、将来の嫁決定。」
排球部の野郎共の多くがたちまちのうちに反応し、あろうことか菅原がヒューヒューと言い出した。東峰がスガよせってと言うがやめない。