第31章 【義兄、危機一髪】
声を上げる西谷に澤村が気持ちはわかるけどと前置きして静かに言う。
「縁下んちは今複雑なんだ、外野の俺達がどうこう言えるもんじゃない。」
それで田中と西谷は渋々大人しくなるがやはり美沙の実父を睨みつける。当の力は仲間の気遣いに感謝しながら今度はしっかりと言った。
「困ります。美沙はうちの子です。」
美沙の実父はなおも整った顔で微笑んだままだ。彼はその娘と違い内側を読ませない。これは厄介だなと力はチラリと思う。外見もそうだがとても美沙の実父とは思えない。
「本人からはお聞きの通りですし、俺も今更連れて行ってほしくありません。」
美沙の実父はそれは本音かといった意味の事を尋ねてきた。血の繋がりがなくいきなり妹になった、それもこんな融通のきかない変わった女の子がそんなに大事なのかと。
「ちょっと待てよ。」
瞬間意外な事に木下が反応した。
「融通きかねーとか変わってるとか言ってっけど仮にもアンタの娘だろ。」
「木下、落ち着け。」
まずいと感じたのだろう、成田が木下を羽交い締めにするが木下の口は止まらない。
「そもそもあんたがほってかなかったらもっと普通に人生過ごせてかもしんねーのに。」
「おい。」
「あんたがほっぽってからおばあさんが箱入りにしてまで育ててよ、おばあさんいなくなってから縁下んちの親御さんが頑張って引き取って、縁下もビビリながら頑張ってやっと阿呆ほどかわいがるトコまで来たってのにそりゃねーだろ。」
「もうよせって、木下。」
成田に言われて木下は黙るがまだ言い足りなさそうにしている。本当に珍しい、いつもなら他の連中が誰かに喧嘩売ったりしている所を冷や汗流して見ているか止めに入る方がほとんどなのに。そしてそれは縁下力に火をつけた。
「美沙、ごめんよ。」
美沙がえっと呟いた瞬間ガッという音とザリリッという靴のかかとが地面を擦る音が響いた。
「力っ。」
「縁下っ、やりおった。」
西谷と田中が叫び排球部のメンツの多くが色めきだった、実父から強引に美沙を奪った力の行動に。
「兄さんっ。」
力の腕の中で美沙が声を上げた。
「ごめんよ、痛かったかい。」
「ううん。」
「よしよし。」