第31章 【義兄、危機一髪】
そうして息を切らせながら美沙の下に参じ、一緒にいる男を見て力は即こう呟いた。
「美沙の本当のお父さんですね。」
後ろで排球部の連中がえええええっと叫ぶ。叫ばなかったのは谷地、清水、月島で谷地はあまりの事に叫びすらでない状態、清水は叫びこそしないが内心はかなり驚いている。月島はとりあえずへーと状況を受け止めていた。一方美沙の実父は力に君はと尋ねる。
「申し遅れました、縁下力です。美沙の、その子の兄です。」
なるほどと美沙の実父は言ってから自分を知っているのかと聞いてきた。
「知ってる方から少し。あ、あのそれより」
力はやや震えつつも呟く。
「妹が何か。」
美沙の実父はくすりと笑う。力の後ろで男子排球部のメンツが身構えた。清水が顔面蒼白の谷地を守るようにその前に立ち、更にその両脇を田中と西谷が手を出せば相手に噛みつかんばかりの警戒ぶりで固める。成田と木下は緊張した面持ちでしかし力の両脇に立つ。日向はビビりつつ美沙と縁下さんに何かするつもりかと威嚇態勢、影山は黙っているが気負っているのか顔が怖い。その後ろではあわわわとなる山口に本当の意味で冷静に構えている月島がいる。そしてこれまた気弱な東峰がここに来て珍しくしゃんと立って様子を見ており、澤村と菅原もまた向こうが万一縁下兄妹に何かするようなら保護する勢いで構えていた。さて、それはともかく美沙の実父はまたくすりと笑ってからそんなに構えなくてもいい少し話していただけだと言った。
「とりあえず私はお父さんとこ行かへんからね。」
釘をさすように言う美沙の言葉に力はギョッとして美沙の実父を見つめる。そのつもりはなかったが顔がこわばっていたせいか睨まなくてもと笑われた。
「あの」
恐る恐る力は尋ねる。
「美沙を連れて行くんですか。」
挑発するようにそうだとしたらどうすると聞き返された。たちまち聞こえていた排球部の連中の一部が騒ぐ。
「何だとおっさん、ゴルァ。」
「おいおっさんっ、力と美沙はもう兄妹なんだぞ今更引き裂くなんて可哀想すぎるじゃねーかっ。」
「田中、西谷やめろ。」
「けど大地さんっ、あのおっさん美沙連れてこーとしてるっぽいじゃないすかっ。」