第31章 【義兄、危機一髪】
いつも通り排球部のメンツと帰っていた。美沙は1人で帰る日だったけど特に気にしていなかった。しかしいつもなら帰宅後にメッセージアプリから通信を寄越してくる義妹は力が部活を終える頃合いになっても何も寄越さない。心配していたら成田と木下にまた病気が始まったとヒソヒソされ、菅原にはパソコン部で頑張りすぎて寝ちゃっただけじゃないのと穏やかに言われた。その可能性は大いにあるがどうしても気になってスマホから無事を確認するメッセージを送ったがやはりテキストどころかキノコキャラのスタンプすら来ない。菅原さんの言う通り寝落ちしてるかもしれないなと無理矢理納得して仲間と帰っていたらまさかの事態に出くわした。
「あれ。」
その時声を上げたのは谷地である。
「あれ美沙さんじゃないですか。」
聞こえた力がえ、と前方に目をやると確かに見慣れた後ろ姿が見える。しかし
「何か男の人と一緒、ですね。」
躊躇(とまど)いがちに言う谷地に他の連中もそういえばと反応する。力は何となくうすら寒い感覚を覚えた。気づけば本能的に走り出していた。
「縁下っ。」
成田が声を上げる。
「ちょ、待てってっ。」
木下も叫び成田と一緒に力を追う。
「大地。」
呟く菅原に澤村が頷いて排球部の一行もまた力を追った。
「縁下待てっ、1人で突っ走るなっ。」
澤村の声を背中に受けつつも力は止まれなかった。近づくたびにだんだん見えてくる。義妹は男に捕まっている。触るなと思った、その子は俺のだ。やがて成田と木下が先に力のもとへやってくる。
「速すぎだろ、縁下。」
木下が元気づけるかのようにニッと笑い、成田がそうだよと後に続く。
「1人で行ってお前にも何かあったらどうするんだ。」
「悪い。」
「気持ちはすごくわかるけどな。大地さん達もそのうち追いつくから。」
「ああ。」
「お、大分見えてきたぞ、今んとこ無事っぽい。」
木下に言われるまでもなかった。力は叫んでいた。
「美沙っ。」
「兄さんっ、」
聞き慣れた甘さ控えめのしかし愛してやまない声が響いた。
「みんなっ。」
振り向く義妹の顔は泣きそうに見えた。