第30章 【義妹、意志決定】
嫌味のつもりは全くない。しかし自分とは違う意味で重い事をさらりと言う実父に美沙は疑問が湧いた。この人の目的は何だろう。そういえばこの人はまだ自分を離してくれない。実父は笑った。本当にあいつと似ている、基本は天然ボケなのに意外と頭が回る所が流石だと付け足す。褒めてくれとるみたいやのにに妙な感じがするなと美沙は思う。青城の及川から他人の悪意に鈍感だと言われた美沙が実父の端々に見える言葉に妙な感じを受けている。相当な事態だ。一方実父はなおも話を続けて美沙が未だ握りしめているスマホに目をやる。電子機器が好きなのかと聞かれてそこは素直に頷くのが美沙であった。
「でも家電とか林檎印のコンピューターはわからへん。絵描くソフトはレイヤーのブレンドモードがようわからんくて乗算しかつこた事ない。プログラムも全然やし人が作ったもん借りて何かこちゃこちゃするしかでけへん。」
何も考えずに思った通りに言う娘に実父はやはり笑って何か言った。
「そんなん無理、私数学苦手やもん。」
美沙は首を横に振る。実父は教えたら出来そうだけどという意味の事を言うが美沙は首を傾げた。美沙からすればデータベース何それ食べられるのという状態である。何を根拠に実父が言ったのか意味不明だ。
そんな話をしているうちに実父はとうとう隙を突くように言った、自分の所に来ないかと。
言われた瞬間来たと思った。一瞬頭が真っ白になった。それでもそこから何とか早めに脱して美沙は思う。ここで意志決定をしなくてはいけない。実父の所に行っても自分の幸せはない。過去の事はもういい、恨むつもりがないと義兄の力にも言った事は今も変わらない。ただこれも変わらない、これは実父に伝えなくてはいけない。
「ごめん、お父さん。私お父さんとは一緒に行かれへん。」
何故と案の定聞かれた。
「私はもう縁下美沙やから。」
実父は苦笑した。完全にあの家に浸かったなということを呟きながら美沙の片頬に触れてくる。総毛立った美沙は両肩をびくりとさせた。力にされてもやや困惑するものを慣れない相手にされてはたまらない。故に美沙は思わずそっぽを向いた。読めない笑みを浮かべて実父は手強いなと呟く。