第30章 【義妹、意志決定】
縁下家の自室にて美沙はスマホの画面を見つめていた。画面に表示されているのは谷地邸を訪れた時に撮影させてもらった若かりし実父の写真だ。見つめながらいつかのようにうーんと唸っている。
「どないしょう。」
只今の悩みは義父母からも実父についてきちんと話を聞きたいがタイミングをどうしようかである。谷地円の言う通り本当なら身内から聞くべき事だ。祖母は墓まで持って行ったし親戚からは疎遠である事も手伝って聞けそうになく義父母は頑なに口を閉ざしているけれどいい加減に、である。
だがしかしこればっかりはさしもの美沙もえいやで強行するのは憚(はばか)られた。どないしょうも思っている間に事はどんどん先延ばしになってしまった。
そしてその間に事は起きた。間違っても及川徹が性懲りもなく突撃して縁下美沙にちょっかいをかけようとした訳ではない。(しつこく放課後デートをしようとたくらんでいたのは確かだが)
もっと深刻な話でそれはまるっきり漫画のような進行ぶりだった。後に縁下力が語った所によれば事が起きた当時はあまりのことに現実感がなかったという。
美沙が下校中の事だった。この日パソコン部は自作ゲームの開発関係でいつもより遅く活動を終えた。そして美沙はサイコロの結果力達と一緒に帰らない日でもあった。美沙がパソコン部の奴らと別れて1人になったタイミングを突かれた形である。
とにかく1人で歩いていたら男に美沙と名前を呼ばれた。横目でちらりと見えたその顔には覚えがある。谷地円に見せてもらった実父だ。歳は経ても面影は残っていたからすぐにわかった。呼ばれはしたが心の準備が出来ていなかったし何か落ち着かないものを感じたのでまずは聞こえなかった振りをして歩き続ける。しかし相手は付いてくる。走るべきか迷ったのはまずかった。腕を掴まれる。ギョッとして美沙は振り返った。辺りには誰もいない。相手は落ち着いた様子でその様子だと私を知っているねと美沙に言った。
「つてを辿って。」
生意気に聞こえる事を承知で美沙は答えてから迷いつつ付け足した。
「えと、初めましてなんでしょかその、お父さん。」
迷ってから目の前の整ったつまり自分とは似ていない顔の男にそう呼びかけた。男は微笑む。