第29章 【義妹、情報収集】
「意外とイケメソ。」
「またお前は、イケメンをわざわざいけめそなんて言わなくていいから。」
「えと、全然美沙さんと似てないね。」
娘の呟きに谷地円はクスリと笑う。
「確かにね、美沙さんはびっくりするくらいお母さんに似てるわ。でもこの人に似ているとこがあるとすれば」
この時谷地円は写真の男を危うくこいつと言いかけたことを縁下兄妹も娘の仁花も知らない。
「機械に強い所かしらね。」
微笑む谷地円の目は美沙が肩から提げているガジェットケースに向けられている。
「薬丸先輩は機械類が大の苦手でコンピュータなんかとんでもないって人だったから。」
美沙も力も仁花も揃って目を見開いた。
「ここに来て新たな事実が。」
「うん、俺もびっくり。」
「美沙さんのスマホ大好きは才能だったんだっ。」
「それは果たして才能なんやろか。」
「わりと抵抗なく自力で運用しているのは才能かもな。」
「あ、そういえばあっちのお部屋にあったパソコンちらっと見えたんですけどモニターごっつ大きいですね、あれ何インチですか。」
「えっ。」
「こら美沙っ、人様の家でいきなりそんな事聞く奴があるかっ。すみませんすみませんっ。」
「いいけど、いきなりそんな事聞いてくる女の子初めてだわ。」
わいわいとしてからしばらく、縁下兄妹はそろそろ帰る時間になった。
「お時間を割いていただき本当にありがとうございます。」
美沙は言い、義兄の力も深々と頭を下げる。
「やっちゃんもありがとう。」
「ううん、そんなことないよ。」
「いや俺からもお礼を言うよ。本当に助かった。」
「いえいえっそんなっ。」
「じゃあ2人とも気をつけてね。」
「はい、お邪魔しました。」
「失礼します。」
「やっちゃん、またね。」
「うん、ばいばい。」
玄関のドアがしまり、縁下兄妹の姿が見えなくなってから谷地円がガクッと膝をついた。
「お母さん。」
娘の仁花はドキリとした。母が泣いている。
「先輩。」
震える声で谷地円は呟く。仁花はそんな母の背を撫ぜ、母は娘をガバッと抱きしめる。
「お母さん。」
娘は言った。