第29章 【義妹、情報収集】
そうして谷地仁花の計らいでとある休日、縁下力と美沙の義兄妹は連れ立って谷地邸へ向かっていた。運良くその日に谷地クリエイト代表谷地円の都合がついたのである。わざわざ話をしたいと言ってきた娘の友人について驚愕したのは想像にかたくないがありがたい話である。
「大丈夫か。」
歩く道すがら義兄の力が言った。
「うん、正直自分から言うといて緊張する。」
美沙は正直に言った。
「せやけどホンマにほんのちょっとでも知りたいから。もうプルプルしっぱなしは嫌やから。」
力はそうかと微笑んだ。
「俺もいるから、な。」
「うん。」
兄妹は両親の目が届かないのをいいことにそっと手をつなぐ。
「いっつもありがと、兄さん。」
「礼には及ばないよ。」
力は言った。
「俺もお前に甘えっぱなしだからこれくらいは、な。」
しばらくして2人は谷地邸にたどり着き、谷地円はやってきた娘の友人及びその兄を快く迎え入れてくれた。娘の仁花が茶を入れてくれてしばらく一同は雑談に花を咲かせる。やがて話のネタが尽きてきた頃合いだった。
「それで、本題は何かしら。」
谷地円の声色が変わった。人を見るのも仕事であろう代表の奥底を覗きこむような視線に美沙はピクリとする。しかし悪いことをしにきたんやないと何とか勇気を奮い起こした。
「私の本当の父の事をご存知ですか。もしご存知やったらどんな人やったとか母とはどうやったんかとかをお聞きしたいです。せめてどんな顔やったくらいでも。」
今度は谷地円がピクリとする番だった。
「どうして私が知っているかもしれないと思ったのかしら。」
当然の疑問だ。隣に座る力が少し心配そうに目をやる中、美沙はガジェットケースからスマホを取り出してあのアルバムを撮影した写真を呼び出す。ビビリの自分がオロオロする可能性を考えて新しく入れたアプリを使いホーム画面にショートカットを作っておいたのは正解だった。
「あの、これその、そちら様ちゃうかなって思いまして。」
緊張で声が上ずってきた。谷地円は渡されたスマホの画面を凝視し
「こんなの残っていたのね。」
ポツリと呟く。
「つまりその私、お母さんとお知り合いやったんやろなって思ってそれやったら何か知ってはるかなって思ってお伺いしました。」