第3章 【欲しいもの】
「お父さんとお母さんが出来て、新しい学校にもいけてお友達出来て、他所で親切な人らにも会えて、それどころかもっと遠いとこにも友達出来て、それに」
美沙はここで一瞬息を吸った。
「何よりめちゃめちゃよう出来た優しい兄さんが出来て、もう外にやらん勢いで可愛がってもろてるもん。」
祖母と2人暮らし、外では捨て子の薬丸と言われ親戚からも疎まれて育った美沙は小さい頃優しい両親とか兄弟姉妹とかとにかく祖母以外にも家族がほしいと思った事が何度もあった。そうして死にたいと思う事もありながらやっぱり死にたくないと粘り続けた数年間、その甲斐あったのかとうとう願いは本当になったのだ。それどころか今目の前にいる義兄からは家族以上の愛を注がれている。これ以上の事が果たしてあるだろうか。そう美沙が語り終わるとグスッと鼻をすする音がする。
「ちょお兄さん」
美沙は焦った。義兄が涙ぐんでいる。
「お願いやから泣かんといて、私兄さん泣かしたいからこんな話したんちゃうねん。」
「わかってるよ。」
手の甲で涙を拭いながら力は笑う。
「でもお前のその手の話聞くとどうしてもくるものがあって。田中とか西谷だったら号泣してうるさいだろうな。」
「えーとぉ。」
考えただけでも頭の中がやかましくなるのであまり深く想像せんとこと美沙は思う。
「で、それはそれとして」
「ふぎゃああっ。」
椅子から立ち上がった力が上から覆い被さってきたので美沙はつい小さく叫んだ。
「兄さん、アカンてお父さんにバレてるかもやのにこんなんしたら。」
言うまでもないかもしれないが抱っこされてしまったのである。
「父さんは今頃部屋で本読むのに夢中だよ。母さんは多分TV見てるし。」
「せやかて。」
美沙は呟くが力はいいからと聞かない。
「俺思うんだけど、」
美沙を抱き締め頭をなでなでしながら力は言った。
「どうせここまで来たんなら誕生日祝ってもらうくらいしたっていいんじゃないか。兄妹でこんな事する仲になったんだ、バチが当たるとかなんとかなんて今更だろ。」
「そう、なんかな。」
美沙がおずおずと呟くと力は頷いた。