第27章 【外伝 成田一仁の感慨】
数秒程固まってから成田はハアアと大きく息をついた。
「お前らそんな事情も抱えてたの。他に知ってる人は。」
「菅原さんには言ってる。元々うちに変な電話かかってきた時の話聞いてもらった。」
「そっか。でもその、気持はわかるけど」
「俺もわかってるよ、父さんも母さんも美沙はうちの子だって言ってくれてるし自分が悩んだ所でどうにもならないって。でも万が一が来た時の覚悟が全然出来なくて。」
「本気でそこまで思うようになったのか。」
兄妹揃ってすっかりお互いに溺れてるなと成田は思う。
「不思議だな。」
成田はふと呟き、力が何がと問うてきた。
「名前呼べないとか悩んでたところからいなくなったらどうしようって思えるところまで来たのが。」
「まだそれ引きずるのか。」
「感慨深いんだよ。」
「半分以上おちょくってるだろ。」
「ないことはないけど。」
まったくとブツブツ言う力に成田は笑う。
「思い出すよな。」
呟く成田の脳裏にとある日の記憶が蘇った。
その日の昼休み、成田は力に昼食を屋上で食べようと誘われた。2組にいる木下も呼んでいるという。たまに排球部の仲間と屋上で食べるのは普通だが田中と西谷が除かれている事、力と同じ縁下姓である編入生がきたという衝撃から大して日が経ってないこと、何より力が少し緊張した面持ちだったことから田中や西谷の耳に入れたくない何かがあるんだろうと察した。
早速3人はひと気のない屋上で一緒に昼食を食べていた。しばらくはわいわいと他愛もないことを話す。
「で」
そろそろかなと思った所で成田は言った。
「ん。」
力は若干とぼけたように言うが成田は釣り込まれない。
「んじゃないだろ、わざわざ俺と木下呼んでここで昼飯ってことは何かあるんじゃないか。」
話が早いなと力が苦笑して箸を一旦置いた。木下がなんだなんだという顔をしてそんな力を見つめている。
「多分驚くなって言う方が無理とは思うけどさ、」
力はそう前置きをした。次の言葉が来るまでにしばしかかった。後で考えれば力にとっては言うのに物凄く勇気が必要だったのだろうと成田は思う。
「1年に来た編入生。」
「ああ、お前と苗字一緒の。」
「あの子、実は」
木下がうんうんと頷きながら先を促している。