第27章 【外伝 成田一仁の感慨】
烏野高校2年4組成田一仁は正直困っていた。このところクラスメイトであり部活仲間でもある縁下力の様子がおかしい。何だかぼぉっとしてため息をついていることが多いのだ。誰かに呼ばれても反応がいつもよりワンテンポ遅く、部活では日向にまで具合悪いんですかと聞かれている始末である。そして今日もまた、である。
「縁下。」
休み時間、成田は力の席に行って声をかけた。力はやはりボヤッとしていてただでさえ眠そうなどと言われる顔つきが本当に眠ってしまいそうに見える。
「縁下。」
もう一度呼んで肩をたたくと力がビクゥッとした。
「あ、ああ、成田か。」
「成田か、じゃないよ。」
成田は逆にため息をつく。
「お前最近どうしたんだ、ずっとボヤッとして。バレー部のみんなも心配してるぞ。」
「ああ、悪い。」
「じゃなくて。」
もう一度成田はため息をついて力の顔を覗き込んだ。
「どうしたんだ。また美沙さんと喧嘩でもしたのか。」
「何で速攻美沙が出てくるんだよっ。」
慌てる力に成田は何でも何もあるかよと思いながら静かに言う。
「ここしばらくのお前の悩み事って大抵美沙さん絡みだろ。」
力はうぐっと唸った。やっぱりなと成田は思う。
「で、今度は何なの。」
「喧嘩はしてないよ。」
「うん。」
「もうちょっと深刻で。」
「具体的に頼むよ。」
「その、」
力にしては歯切れが悪い。成田は何だかよくわからないけどちょっと覚悟しておこうと思う。
「美沙が連れて行かれるかもしれないってこの所不安で。」
正直成田はずっこけそうな心持ちだったが何とかこらえる。ギャグ漫画的な事をしてクラスの受けを狙っている場合ではない。
「また随分極端な事言いだしたな。お前ホント美沙さん限定で面白いことになるんだから。」
「ネタキャラは美沙担当だよ。」
「烏養さんに突っ込まれてる時点でお前も大概だよ。で、何でまたそんな極端な事考えだしたんだ。」
力が一瞬ここで黙ってしまった。成田は落ち着いて力が話しだすのを待つ。
「実は」
やがて力は辺りを憚(はばか)ってボショボショと成田に耳打ちをした。聞かされた成田は固まった。