第26章 【連れて行かないで】
「お父さん達に見つかったら何て言い訳しよ。」
「俺が引っ張り込んだって言うよ。いっその事踏み越えちゃった事言おうか。」
「ちょ、ちょ。」
慌てる美沙を力はそっと抱きしめる。
「冗談。」
「兄さん、もー。」
むーとしつつも義妹の手が自分の寝間着を掴むのを感じた。ほんの少し力の胸が痛む。あの夢で出てきた美沙はいつだったか力がアルバムで見た薬丸だった頃の幼い姿だった。ちょくちょく2年仲間の成田や木下に美沙をちっさい子扱いしていると言われているが確かに心の中ではそう思っているのかもしれない。15歳の少女ではなくもっと保護が必要な存在だと、そして自分は美沙を保護してやる事で自我を保っているのではないかと。
「兄さん、どないしたん。」
美沙が不思議そうに尋ねる。
「ああ、いや」
力は言った。
「今更だけど、確かに美沙は普通の子じゃないなって。」
「何なん。どうせ変な子やで。」
「ああごめん、そうじゃなくて」
力は慌てて義妹の頭を撫でる。
「こんな俺の我儘勝手に付き合ってくれてるから。」
「ホンマにどないしたん、兄さん。」
キョトンとしている美沙の目からはわざと気遣っている様子はない。
「そのままだよ。」
力は言った。
「ようわからんけど、」
美沙は言った。
「私の兄さんは縁下の力さんだけやで。」
ドキリとした。義妹の半分ボケは時に凶器になるような気がする。
「せやけど、その」
ここでまた美沙は恥ずかしそうに俯いた。
「兄さんの妹も、えと、私だけやったら、ええな、とかなんとか、言うてみたり。」
義妹の声は最後の方が消え入りそうだった。ああ、と力は思いまたガバッと義妹を抱き締める。
「妹どころか」
力は呟く。
「お前はずっと俺のだよ。」
そう、誰が何と言おうと腕の中の少女は自分の物だ。奪われてなるものか。奪われるとしたら唯一、ここで力は祈った。
薬丸のおばあさん、お願いです。踏み越えた事を怒らないでください、俺をずっとこの子といさせてください。この子を護ってあげてください。
それは本当に切なる願いだった。
次章に続く