第25章 【不穏な影】
「お母さん。」
疑問形で呼びかけるも義母はすぐに反応しない。いい子ね美沙と義母はその息子がやるように呟く。しばしそうしてから義母はハッとしてごめんねと美沙を離した。多分、と美沙は思う。義母と自分達兄妹が恐れている事は一致している。
そして義兄の力が帰ってきてからである。美沙はえーとぉといった顔でその義兄を見つめていた。何だか難しく考えている顔の義兄の力、美沙としては嫌な予感しかしない。
「何で既に逃げたそうなの。まだ何も言ってないんだけど。」
「べ、別に。」
力のベッドの上に座らされている美沙は視線をそらして呟くがその時点で嫌な予感しかしていないのがバレバレである。力はクスリと笑った。
「またどっかに留め置くつもりはないから。」
美沙はあからさまにホッとする。これでまたパソコン部が終わってから第二体育館に留め置かれるなんて事になったら月島や烏養に何を言われるやらわかったものではない。下手すればパソコン部の奴らもネタにしそうである。
「まあ最近はパソコン部のみんなと帰ってるから大体大丈夫な気がするけど、」
力は呟いた。
「及川さんをどうしたものかな。」
あ、やっぱりそれかと美沙は思った。
「予知できたら逃げられる気ぃするけどまず無理ちゃう。」
「そもそも俺らの状況知ってる癖にってとこがどうにも。ラーメン屋で出くわした時も勝手に触るしホント懲りないよな。」
「何でやろね、私は癒し系キャラちゃうと思うけど。」
「お前が何だかんだ言って相手するからだろうな。」
「そら意地悪されてる訳やなし。」
「うん、お前はそういう奴だよ。」
「せやけど兄さん以外の男子に抱っこされるんは嫌。」
「俺だって困るよ。」
力は言って美沙をいきなり引き寄せる。
「兄さん、お母さん下いてはるっ。」
「大丈夫だよ、多分。」
無茶言うてるわと美沙は思うが力はいつも通り離すつもりがないようだ。
「ま、まあ及川さんについては最悪岩泉さんに後で報告ちゅうことで。」
「そうだ、こないだ連絡先聞いたんだった。」
「さすが兄さん。」
「それよりそれ以外でお前が連れてかれないかが心配。」
「兄さん、やめとこ。」
美沙は言って義兄にスリスリグリグリをした。