第23章 【外伝 村人B、衝撃の回想】
「××高校から編入してきました、縁下美沙と申します。よろしくお願いします。」
まばらな拍手が響く中、編入生はろくに表情を変えない。クールな人っぽいと谷地は思った。それに名前、縁下って言うんだ珍しいなぁと一瞬谷地はそのままスルーしかける。しかし直後にピシッと音がしそうな勢いで固まった。体がワナワナと小刻みに震える。脳内がえええええええええっという言葉で埋め尽くされる。口に出さなかったのは偉い。縁下ってまさかっと思う彼女の脳裏には自分がマネージャーをやっている男子排球部の先輩、縁下力の姿が浮かんでいた。あれ縁下さんって他校に妹さんいたっけそれとも遠い親戚とかかな、いやいやここはどんでん返しでまさかの同姓とか。動揺のあまり谷地の思考は暴走している。それこそ縁下力が見たら落ち着いてと逆に慌てたかもしれない。当の編入生は礼儀正しく一礼し、担任に促されて自分の席—つまり谷地の隣—につく。谷地はビクーッとしてしまった。編入生がほとんど変わらない表情でちらりとこちらを見た。わーっ私ってば何てしつれいなことをををををを、どうしようすごく気を悪くしたよねなんか言わなきゃなんか。
「あああああのっ。」
パニック状態のまま小声でしかし早口で谷地は言った。
「私、谷地仁花でありますっ、よろしくっ。」
声が上ずっている、語尾もおかしい。やはり表情の変わらないままそんな谷地を見つめる編入生、谷地はダメだあああああ絶対変な人と思われたああああどうしようめっちゃ固まってる第一印象最悪だああああああともう気の毒なレベルで動揺する。しかしここで思わぬ事が起きた。編入生が反応したのである。
「縁下美沙です。」
そして固い表情を変えぬまま編入生は片方の手を上げてビシッと小さく敬礼した。
「しくよろであります。」
あれ、と谷地はキョトンとした。その瞬間にパニックが一気に落ち着く。もしかしてこの人と思った。結構ノリがいいというか優しいのかな。そんなことを考えている間に朝礼は終わり、そのまま授業に移った。編入生は見た目どおり真面目に授業を聞いていた。