第6章 手を伸ばして2*グリムジョー
虚圏には一人のマドンナ的な存在の女性がいた。
女の私でも見惚れるような、強くて綺麗な女性。
誰もが彼女の虜だった。
でもある時、グリムジョーが彼女を強姦したって噂が流れて、それは間もなく私の耳にも入ってきた。誰もグリムジョーを信じなかった。
私は半信半疑だった。
グリムジョーは素行が悪くて、いつも怖い顔をして周りを威嚇してたから。
だけど、私はグリムジョーが優しいことを知ってた。
噂が流れる前のこと…
ザエルアポロが私を雑用として、いつも大量の重い資料や実験器具を運ばせていたある日。
資料を抱えた私は廊下でグリムジョーにぶつかってしまった。
「わっ…!」
私はバランスを崩して尻餅をついて、その反動で資料が散らばってしまった。
「っ、…んだお前…?」
「ご、ごめんなさい…!」
不機嫌な表情をしたグリムジョーに見下ろされて、震え上がった私は何とか声を振り絞って謝罪を口にする。
(とにかく、資料、拾わないと…。)
私が周りに視線を巡らせて、散らばった資料に手を伸ばした時…グリムジョーが私の目の前で屈んだ。
(…!ど、どうしよ、「よくも俺にぶつかったな!」って首を絞められて、虚閃を撃たれて、殺された後その辺に捨てられて…)
怖くて咄嗟に目を閉じる。身構えてじっとしていると、紙を拾う音が聴こえる上に自分の身には何も起こらない。
恐る恐る目を開けると、グリムジョーが資料を拾っている光景が見えて、自分の錯覚かと疑った。
丁寧な手つきで拾っては綺麗に一枚一枚重ねていく。
(グリムジョーが…嘘…助けてくれてる!?)