第3章 気付くのはいつも突然*黄瀬涼太
いい雰囲気を従業員のおじさんに壊された後、二人は気まずいまま車に乗った。
さっきの感覚を思い出し、黄瀬はある違和感を覚える。
涙を流したれんを見た時、自分の心が締め付けられたような、落ち着かない感情が瞬時に芽生えた。
何故?わからない。
友達が泣いていたら、泣くなよ!って、軽く励まして終わるのに。
帰りはれんが運転すると言ったため、黄瀬は助手席で家に着くまで寝て過ごすことにした。
(はぁ…折角私を元気付けるために連れて来てくれたのに、申し訳ないことしちゃったなぁ…。)
黄瀬を家に送るまで、れんは何度も溜息をついた。
そして変にぎくしゃくした関係のまま、一週間が経ち、れんは事務所の社長室に呼び出された。
ふくよかな体型のオジサマ、という表現がぴったりな社長が、髭を摩りながら一枚の紙を差し出した。
「そろそろ潮時だと思ってね。最近入った新人の子を担当して欲しいんだよ。」
れんは困惑した。そして何より、最初に浮かんだのは黄瀬の顔。こんな状況で離れ離れにはなりたくなかった。
「あの、黄瀬君のマネージャーさんは、誰が?」
「小泉さんに頼もうと思ってるよ。」
小泉…というと四十代の男性だ。
「涼太君は知名度も上がってきたし、女性ファンが増えたからね。女性が涼太君のマネージャーだと聞いて、変に想像してしまって陽月さんに危害を加える可能性がある。」
社長の判断は正しい。しかし、れんにとっては最悪の決断。
しかしれんには、黄瀬のマネージャーを続ける正当な理由がない。
「わかりました。」
れんは内容を受け入れ、渡された新人の女の子の資料を眺めた。