第3章 気付くのはいつも突然*黄瀬涼太
そして今、次のロケまでの一時間の休憩で、楽屋でくつろぐ黄瀬がれんにある話題を振る。
「れんさんって、彼氏いないんッスか?」
「え!?突然どうしたの…!」
「だってこの前抜いてくれた時に、あの手つきは処女じゃないと思って。彼氏に教えてもらったんスか?」
それを面と向かって言う奴がどこにいる。
(ここにいたわ…。)
と心底呆れたれんは、素直に言うのが恥ずかしいのではぐらかして答える。
「さぁ…最近はネットで知識が得られるからねぇー…。」
「ネットだけじゃあんなテクニック身につけられないことぐらい、俺だって知ってるッスよ。」
「テクニックって…そんなの詳しくはわからないけど…。」
言った後にれんは気付いた。墓穴を掘ってしまったと。
「へ~…誰かから動きだけ直々に教えられたんスね~…。」
しめしめと言わんばかりに口角を吊り上げて、れんの弱みを握れた気分に浸る。
「…はいはいそうですよ!でも今はいない。一年前に別れたわ。」
別れた。その言葉に黄瀬はなぜか安心した。
「…じゃあ、今日もして欲しいッス。」
「ええ!?」
「まだ時間あるし、お願いしますッス!」
「わかった…。」
黄瀬の笑顔に負けたれんは、また黄瀬自身を慰めることに専念した。
車の中での移動中、れんが運転している車の助手席で、黄瀬がスマホをいじる姿を時々チラ見する。
(黄瀬君、私のことどう思ってるんだろう…?尻軽だと思われてなきゃいいんだけど…。)
付き合ってもいないのに一種の性行為をする関係。
最初はただのマネージャーと芸能人だったが、いつの間にか性処理の相手になってしまったのではないのだろうか。
そもそもこんな悩み自体馬鹿げているのでは?
(好きでもないのに何悩んでるんだろ…好きじゃ、ないのかな…?)