第17章 【夜シリーズ】イロコイ【緑谷出久】
「気にしなくていいんだよ。それに君は、充分魅力的だと思うよ。問題なんて無いから…ね?」
優しい言葉に目頭が熱くなり、咄嗟に目をグッと閉じる。
今まで悩んできたこと、辛かったことをまとめて慰めてくれているようで、どうしてか…とても嬉しくて視界が潤んだ。
でもこんな所で泣いたら、周りに迷惑だ。
緑谷さんの綺麗なスーツも汚す訳にはいかない。
(いくら緑谷さんが優しいからって…)
強く、強く、瞼を閉じる。
震える握り拳に力を込めていると、誰かがこちらに来る足音が聞こえた。
緑谷さんは私を離し、その誰かと会話を始める。
薄目を開けて見てみると、緑谷さんと話しているのは指名を知らせるスーツの男だった。
「…ごめん、指名入ったから行って、……!」
(待って…!)
立ち上がった緑谷さんの手を咄嗟に掴んで、懇願するように見上げて訴える。
すると緑谷さんは、ジャケットの内ポケットから小さなケースを取り出した。
中から名刺を一枚出して、裏側にペンを走らせる。
「そんな顔しないで…?またお話ししよう?」
「あ…」
「嫌なら来なくて大丈夫だから。」
ひらひらと手を振り、私の元を離れる緑谷さん。
この時だけは、不思議と寂しさを感じなかった。
渡された名刺をひっくり返し、丁寧な文字で書かれた一文に目を通す。
(これって………)
私は無意識に自分の胸に手を当て、うるさく鳴り響く心臓の音を暫くだけ聴いていた。
これが、私と緑谷さんとの出会いだった――――