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【短編集】ILY【R18】

第17章 【夜シリーズ】イロコイ【緑谷出久】


「気にしなくていいんだよ。それに君は、充分魅力的だと思うよ。問題なんて無いから…ね?」

優しい言葉に目頭が熱くなり、咄嗟に目をグッと閉じる。
今まで悩んできたこと、辛かったことをまとめて慰めてくれているようで、どうしてか…とても嬉しくて視界が潤んだ。

でもこんな所で泣いたら、周りに迷惑だ。
緑谷さんの綺麗なスーツも汚す訳にはいかない。

(いくら緑谷さんが優しいからって…)

強く、強く、瞼を閉じる。
震える握り拳に力を込めていると、誰かがこちらに来る足音が聞こえた。

緑谷さんは私を離し、その誰かと会話を始める。
薄目を開けて見てみると、緑谷さんと話しているのは指名を知らせるスーツの男だった。

「…ごめん、指名入ったから行って、……!」

(待って…!)

立ち上がった緑谷さんの手を咄嗟に掴んで、懇願するように見上げて訴える。
すると緑谷さんは、ジャケットの内ポケットから小さなケースを取り出した。

中から名刺を一枚出して、裏側にペンを走らせる。

「そんな顔しないで…?またお話ししよう?」

「あ…」

「嫌なら来なくて大丈夫だから。」

ひらひらと手を振り、私の元を離れる緑谷さん。
この時だけは、不思議と寂しさを感じなかった。

渡された名刺をひっくり返し、丁寧な文字で書かれた一文に目を通す。

(これって………)

私は無意識に自分の胸に手を当て、うるさく鳴り響く心臓の音を暫くだけ聴いていた。

これが、私と緑谷さんとの出会いだった――――
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