第17章 【夜シリーズ】イロコイ【緑谷出久】
…どうせ演技でしょ?って、言えない…。
緑谷さんの目を見ると、本心で言ってくれているのが分かるから。
おまけにあの柔らかい笑顔。
ふわり…と、心に吹いた柔らかな風。
私はそれを確かに感じたのだ。
重かった気持ちは一瞬で軽くなり、無意識に涙となって流れ落ちた。
「……!あ、ち、ちが、これは、」
突然の涙に私が一番驚いてしまい、一人であたふたしてしまう。
すると緑谷さんは、スーツの胸ポケットからハンカチを取り出して私の涙を拭いてくれた。
「うん。いいよ慌てなくて。泣こうと思ってないのに泣いちゃうこと、僕もあるから。」
「あ…はい。ありがとうございます…。」
今まで異性から優しくされたことが無かったせいか、私の心が甘い疼きに溶けてゆく。
この人は、他の人と違う。
優しくて思いやりがあって…こんな自分を見捨てないで話を聞こうとしてくれる…。
緑谷さんはぽつぽつと喋り始めた私の手を握り、そっと耳を傾けて相槌を打ってくれた。
「私、仕事が上手く行かなくて…その時にここを見つけて、そしたら好みの人を見つけて…でも、全然つまらない女だから……」
「だから、相手にしてくれない…ってこと?」
「…はい。あ、でも……相手の方ではなく、私の方に問題があることは分かってて…」
緑谷さんは少し黙ると、考え込む仕草をする。
だけど次の瞬間、なんと…
緑谷さんは私を胸に抱き寄せ、背中を摩ってくれたのだ。
優しい掌の熱が背中からじんわりと全身に広がり、心まで温めてくれるようだった。