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【短編集】ILY【R18】

第17章 【夜シリーズ】イロコイ【緑谷出久】


…どうせ演技でしょ?って、言えない…。

緑谷さんの目を見ると、本心で言ってくれているのが分かるから。
おまけにあの柔らかい笑顔。

ふわり…と、心に吹いた柔らかな風。

私はそれを確かに感じたのだ。
重かった気持ちは一瞬で軽くなり、無意識に涙となって流れ落ちた。

「……!あ、ち、ちが、これは、」

突然の涙に私が一番驚いてしまい、一人であたふたしてしまう。
すると緑谷さんは、スーツの胸ポケットからハンカチを取り出して私の涙を拭いてくれた。

「うん。いいよ慌てなくて。泣こうと思ってないのに泣いちゃうこと、僕もあるから。」

「あ…はい。ありがとうございます…。」

今まで異性から優しくされたことが無かったせいか、私の心が甘い疼きに溶けてゆく。

この人は、他の人と違う。

優しくて思いやりがあって…こんな自分を見捨てないで話を聞こうとしてくれる…。
緑谷さんはぽつぽつと喋り始めた私の手を握り、そっと耳を傾けて相槌を打ってくれた。

「私、仕事が上手く行かなくて…その時にここを見つけて、そしたら好みの人を見つけて…でも、全然つまらない女だから……」

「だから、相手にしてくれない…ってこと?」

「…はい。あ、でも……相手の方ではなく、私の方に問題があることは分かってて…」

緑谷さんは少し黙ると、考え込む仕草をする。

だけど次の瞬間、なんと…
緑谷さんは私を胸に抱き寄せ、背中を摩ってくれたのだ。

優しい掌の熱が背中からじんわりと全身に広がり、心まで温めてくれるようだった。
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