第2章 好きなのに*六道恭平
「チッ…どこ行ったんだよれん…!」
建物の周りを一周して探してもいない。
もしや専用スタジオに帰った…?俺のカンの通りに動けばれんを見つけられるのか?それとも心当たりのある場所を見に行くべきか?俺は立ち止まってしばらく考えた。
「…悩んでも仕方ねぇ、カンに従うしかないだろ…!」
俺は他の雑念を全て取り払ってまた走り出した。
当たってるか間違ってるかは見てからの話だ。
(れんが履いてたハイヒール…。)
俺が専用スタジオに着いて玄関で見たのは、乱雑に転がった、紛れもなくれんがドレスと一緒に身につけていたハイヒールだった。
俺はれんが居ると確信しながらも内心穏やかではなかった。
泣いていたという老夫婦の話。普段きっちりしているれんが、靴を揃えずに家に上がったことがわかる玄関の状況。
俺は上がった息を整えながられんと自分の靴を正し、れんの部屋に向かった。
階段を上って一番奥の部屋。
部屋に入ろうとドアの前に立つと、何やら話し声が聴こえてきた。
「ごめんね、山田さん…愚痴、聴いてもらって…。」
涙声で喋るなんて、あの二人の話は本当だった。
俺はこの先不安を感じながらも、覚悟を決めてドアノブを押した。