第2章 好きなのに*六道恭平
俺が会場に戻ってからは、もうどこにもれんの姿を見つけることはできなかった。
「ミカン女なら知らないぞ。」
「いおりんってば、そんなこと言わないで探そうよー。」
「恭平、携帯で連絡はつかないの?」
「ああ…。電話しても繋がらねぇ。」
「どっか散歩してるんじゃないの?」
特に理由もなくれんが大事な場所から出ていく訳がない。
まさか事件に巻き込まれたんじゃ…と悪い方向にまで思考が及んだ時だった。
「何だったんだろうな?」
「あの女の子泣きながら走って、転けたりしないかしら…?」
俺の真後ろから聞こえてきた会話に、直感的に反応した。
「少し伺いたいのですが、その女性の格好は?」
突如として現れた俺に驚く熟年夫婦が、焦りながらその時の様子を教えてくれた。
「えーっと、確か薄い紫色のドレスを来てたわよね。」
「ああ。腕で目を覆いながら走ってたよ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
(間違いねぇ…れんの奴、何があったんだ?)
考えても仕方ないことだとわかっていたが、もし俺が原因でれんを泣かせたなら追いかけなければ。
俺は情報を提供してくれた二人に頭を下げて、急いで会場を飛び出した。