第13章 濡色*爆豪勝己
「…何が目的かは知らないけど、カフェのコーヒーに睡眠薬を混ぜたのね?仲間がいるんでしょ?」
「そうだ。」
「いい加減教えてもらえない?何が―――」
その、俺を睨む目…その視線に含まれる俺への憎しみが、愛情に変わりはしないか。
キツい口調が、慈しみと優しさに溢れたものにならないか。
中学の時、こんなことを思い始めた俺は正真正銘のバカだと思った。
クソ女…幼馴染という肩書きを持ったモブ女……何回俺がお前を頭の中から追いやろうとしたか…。
それでもこいつが消えない理由は、もう分かっちまった。
今回こうして、陽月に拉致同然のことをするよう周りに提案したのも…。
笑けてくるぜ……こんな俺でも、お前にとったら最低なクズ男なんだよな…。
「なに黙ってんのよ…!あんたに聞いてんだから…ちょ、!?」
俺はふと思い立ったように、陽月の左手に触れた。
陽月は抵抗してギュッと拳を作るが、俺の目的は陽月の薬指で光る愛の証。
指先に当たった硬い感触に、俺は自分の心が大きな闇に包まれる感じがした。
(あんな野郎とくっつきやがって…)
「触らないでッ!爆豪、あんた、変よ…!いい加減何か喋ってよ…!」
…うるせぇ…。
俺に強気な態度を取っていた陽月は、気付けば恐怖に満ちた双眸を揺らしていた。
憤りで上気していた顔は、今では死が迫っている人間のように青白い。
「……仕方無かったんだよ…こうするしか……」
「は?…どういう、こと……?」
か細い声を絞り出した陽月の目を見たが最後…
俺はただ、心の奥深くまで潜り込んで来た闇の侵食を許した。