第13章 濡色*爆豪勝己
いつの間にか仰向けに寝転がっていた俺は、天井を見上げてボー…と時を過ごしていたらしい。
今何時だ…?
片手を持ち上げて顔の前にかざし、目を凝らして覗いた時計の針は7時ちょうどを指していた。
(にしても暗ぇ…いっそ明るくするか?)
陽月の眠りを妨げないために部屋の電気は消してたが、もういいんじゃないかと思い始めた俺と呼応するように、陽月の身じろぎする音が微かに聞こえた。
「…!」
俺は反射的にガバッと起き上がり、床に掌をつけて陽月の様子を窺う。
苦しそうに歪んだ目元には濃い影が落ち、眉間には所狭しに皺が寄っている。
その皺がスー…と消えて穏やかな表情になると、陽月の瞼がゆっくりと持ち上がった。
「…おい」
「………へ?」
暗闇の中で声をかけた俺の方をじっと見て、陽月はしばし真顔で瞳をワナワナと震わせる。
数秒では呑み込めない状況下で、逞しく頭を高速回転させているらしい。
「な、なんで、私…確かカフェ……爆豪、あんたまさか…!」
陽月は自由の利かない腕をふと見て、自身の手を拘束しているロープが解けない物だと分かると、俺に鋭い眼光を向けた。
「私をどうするつもり?縛ってこんな部屋に閉じ込めて…」
「理由があるからやってんだろ、解放されたきゃ大人しくしとけ。」
「は?何で私があんたの言う事に耳を貸さなきゃいけないワケ?」
「チッ、マジでめんどくせぇ女だな…」
強気な姿勢も、俺に向ける侮蔑の目も、何一つ変わっていなかった。
だから、俺はこいつの事をずっと忘れられなかったのかもしれない。
中学時代から、捻れて複雑化した陽月との関係に対して、自分らしくない思いを抱くことも多かった。