第13章 濡色*爆豪勝己
俺の家の二階にある、隅の部屋。
窓が北に面しているため、一日を通して部屋の中が暗く、夜なんかは月の光すらも差し込まない闇となる。
家具は全く置いておらず、扉は外から鍵をかけられる。
その部屋に、初めて客がやって来た。
「チッ……厄介なことになったぜ…。」
高校を卒業してプロヒーローになった俺は、順風満帆…と周りから思われる生活を送ってきたはずだった。
俺のファンを公言する女から言い寄られてきたことだって…数える気にもならないが、それなりには居たと思ってる。
だが、幼稚園から高校までを共に過ごした、たった一人の存在が邪魔で他の女なんか目に入らなかった。
陽月れん……本当に嫌な女だ。
いつも俺のことをドブを見るような目で蔑んでは、「最低!クズ!」と罵声を浴びせてくるような奴だった。
あんたが緑谷にしている事よりマシよ!……そう言って俺を睨みつける時の顔は今でも脳裏に焼き付いている。
(流石に寝てる間はんな顔しねぇな…。)
そんな女は現在、暗い部屋の床に乱雑に敷かれた布団の上で、安らかな顔して熟睡してやがる。
両手は前で縛られてるから不自由はあるだろうが、それでも気持ちは良さそうだ。
(……これじゃ、どっちが悪役か分かんねー…)
こいつを運んできたのは俺だが、これからどうするかは全く決めていなかった。
どうせ陽月のことだ…俺の顔を見て騒ぎ立て、状況を説明しろと鬼の形相で迫るに違いねぇ。
陽月の隣で胡坐をかきながら、俺は珍しく思い出に浸って暇を持て余していた。