第10章 傷*ラクサス・ドレアー
「怪我してんだろ、それで風呂はやめとけ。」
「…でも、汗が…」
自分の体に視線を這わせて、困ったように呟く。
包帯のこともあるし、俺はふと思いついたことを口にした。
「拭くか。」
「あ…タオル、洗面所にあったっけ。」
れんはクルリと方向転換して洗面所に篭り、桶にお湯を溜めてそろそろと準備を始めた。
遠くで水がチャプチャプと音を立てているのをベッドの上で聴きながら、天井を眺めて考える。
(背中とか自分で拭けねぇよな…)
俺はそれ以上の思考に至らず、ベッドから起き上がって洗面所のドアノブに手をかけた。
「きゃあっ!?」
(やべっ!!)
開けたドアを急いで閉じ、騒ぐ胸に手を当てる。
一言声をかけるのを忘れていた。
(マジかよ…!)
…そして見てしまった。
持ち前の反射能力ですぐ隠されてしまったが、下着を付けていない姿のれんを….
「何で入って…!?」
扉越しにれんが泣きそうな声で叫ぶ。
「わ、悪気はなかった、背中とか、手が届かねぇだろうと思って」
顔中が熱くて火が出そうだ。
思考がとんでもない方向に行きかけて、懸命にストップをかける。
(落ち着け…童貞じゃねーんだ、思い出せ…いや何を思い出すんだ!)
ストッパーまでもが暴走し、らしくない慌てぶりに自分で頭を抱えた。
ともかく、れんに謝らなくては…一文字に結んだ口を開こうとした時、
「声、かけてくれたら良かったのに…」
れんが消えかかりそうな声でそう言って、なんと…ドアを少し開けたのだ。
隙間から顔の半分だけを覗かせて、俺に告げる。
「お願い、してもいい?」