第10章 傷*ラクサス・ドレアー
「こっち…!」
無我夢中で道を進んでいると、いつの間にか背後の騒々しさは消えていた。
都心から離れた静かな町に辿り着き、足を止める。
「…ハァ、大丈夫か?」
「……うん。」
かなりの距離を走って来たが、れんは疲れた表情をしていない。
病み上がりのクセになんてタフなんだ…
レンガ造りの建物や街灯が並ぶ見事な景観を見渡し、れんの手を握り締めてゆっくりと歩く。
「ここで休むか。」
息が整ってきた頃、宿の看板を見つけたので建物の中に入る。
フロントで鍵をもらい、部屋に足を踏み入れるなりベッドに背中からダイブした。
ボスッ
「あー…ったく、迷惑極まりない奴らだったぜ。ここまで探しに来たら賞賛モノだな。」
「……」
「どうした?」
仰向けに寝転んだ俺の顔を見つめ、ムスッとした顔で突っ立っているれん。
心配しているのかと思い、
「見つかったらまた逃げればいいだろ。」
と声をかけたが、そうじゃないらしい。
「…聞いた?」
「?」
「私が、子どもだって…」
そういえば、野次馬の中にそんな事を言っていた奴が居たな…と思い出してみる。
警察の方もすっかりれんが誘拐された子どもだと思っていた様子であった。
「気にすることねぇだろ。」
身長がちょうど俺の腹辺りまでしかないれんは、俺と並ぶと確かに子供に見える。
だが、年齢は俺と同じでちゃんとした大人だ。
「…。」
まだ納得いかないらしいれんが、
「お風呂入ってくる」と言ってスタスタと部屋の扉を開けようとする。
「待て…!」
大浴場に行こうとしているようだが、それはマズいとれんの背中を呼び止めた。