第10章 傷*ラクサス・ドレアー
「オレに何か用か…?」
警戒して答えない警察官達と暫く睨み合っていると、周りの野次馬が騒動の口火を切った。
「そいつだ!誘拐犯だ!」
「間違いねぇ!横の子どもは拐われたんだ!」
「早く捕まえてくれ!」
傍観者が一斉にザワザワと騒がしくなり、中でもハッキリ聞こえた“誘拐”の言葉に瞠目する。
「…あァ?」
「え?」
俺達は顔を見合わせて、目で会話した。
一体どういうことなんだ?
何か混乱を鎮める方法はあるか?と。
(オレが何を言っても聞かねぇだろうし…れんに任せる。)
そう表情で訴えると、小さく首を縦に振ったれんは静かに前を見据えた。
「待ってください…!」
俺の意思を汲み取って、れんが先頭の警察に歩み寄る。
「もう大丈夫だ、君を保護する。」
恐らく俺は悪人と間違えられていて、れんを拐った誘拐犯だと思われている…失礼でけったいな話だが、ここは誤解を解くのが最善だ。
「私は誘拐されてません…言っておきますが、彼はギルドを破門された魔導士です。」
(何爆弾投下してんだ!?)
ギルドを破門された、という言葉に警察が眉間にしわを寄せる。
「破門されただと?ますます危ない奴じゃないか!」
言った本人であるれんは、「やっちまった」みたいな顔で口を手で覆う。
そうだ…れんは時々とんでもない場面でしでかす奴だった…
「捕まえろ!」
遂に俺を確保しようと動き出してしまった警察官に背を向け、れんが俺の元に走って来る。
「ラクサス…!」
普段のクールさがどこかへ行ってしまった様子で俺の手を取り、かなりのスピードで駆ける。
後ろから追いかけてくる警察を撒くため、人が多くて入り組んだ市場を最大限利用して走った。