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【短編集】ILY【R18】

第8章 わたしたち*緑谷出久、飯田天哉


「…」

「緑谷君…!」

あまりにも一瞬すぎて見えなかったが、飯田の一撃は緑谷に防がれたらしく、固く握られた拳は緑谷の掌に収まっている。

「早かったね。鍵を開けておいて正解だったよ。」

「緑谷君…答えろ!なぜ君がこんなことを…!」

「こんなこと?ああ…こういうこと…?」

(…!)

緑谷は怒りに満ちた飯田とは反対に、涼しげな顔でれんを引き寄せ唇を重ねる。

「んっ…」

「っ!おい…!」

飯田は咄嗟に二人を引き剥がし、れんを抱き寄せ緑谷を睨みつける。
れんは久々に感じた恋人の体温に頭が冷え、意識が底なし沼へと落ちていく感覚を覚えた。

…ごめんなさい…私に足りなかったものを見つけてしまったの…

飯田の額には青筋が浮き、腸は煮えくり返って頭に血が上っていた。

「君には失望した…兎に角、れんは返してもらう!」

貼り付けたような薄ら笑いで、緑谷は冷淡に告げる。

「返せって言われても、陽月さんはもう僕のものだけど…?」

「なっ!?」

色を失くした瞳に誘われて、れんは飯田の腕から逃れる。
緑谷の意のままに動くれんは操り人形のようだった。

れんは愛しそうに緑谷の首に腕を回し、小さく音を立てて頬に口付けを落とす。

「れん…!?」

闇の中に放り込まれた意識が、名を呼ぶ飯田の声に垂れた首を持ち上げる。
だけど、見えない。
黒い霧に覆われた世界で目を開けても、鮮やかな色を持つのは自身の記憶だけ。
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