第8章 わたしたち*緑谷出久、飯田天哉
れんはだらしなく四肢を放り出し、白濁と蜜が混ざったものが後孔まで伝う感覚に悩ましげな溜息をついた。
肩で息をするれんの頭を膝に乗せた緑谷は、さっきとは別人のように優しい笑顔でれんの髪を梳いている。
額や首に張り付いた髪を丁寧に剥がし、汗ばむ肌に指を滑らせる。
心地良さにウトウトするれんは、トロンとした目で壁にかかった時計を一瞥した。
(もうそんな時間か…。)
午後7時…緑谷と始めてから二時間は経っていた。
敵は夜にかけて活発になる。
だから、飯田にはバレないと思っていたのに…。
後戻りができない状態まで来てしまったれんは、焦るどころか寧ろ冷静だった。
ボー…とする頭でこれからどうするか考える。
(もういっそ、デク君と…)
バァアン!!!
「きゃっ!?」
部屋の扉が勢いよく開いた音に驚愕して、思わず手元のシーツを体に巻き付ける。
緑谷は体勢を変えず、堂々とした態度でそこに立つ人物を迎えた。
「れん!」
「天哉…」
飯田はすぐに部屋には入れず、ただ眼前の光景に言葉を失った。
全裸の緑谷、髪が乱れたれん…むせ返りそうな程熱が篭った部屋の空気。床に散らばった衣服。
悲しみか、悔しさか、虚しさか…
何かを感じているのに、あまりの衝撃で何も感じない。
覆りようのない“事実”が高波のように襲いかかった。
「っ…緑谷!!!!」
堤防が決壊した飯田の怒号にれんの喉がヒュゥッと鳴った。
高く振り上げられた腕に臆することなく、緑谷は居座り続ける。