第17章 直接対決
「だーれだ。」
池袋の夕方。
新宿に向かおうとしたものの気が乗らず、来た道を引き返そうとしたその時だった
人通りの少ない路地裏。
そこは、駅から静雄さんの家までの最短ルートだった
近道だからって、こんな人通りの少ないところを通るんじゃなかった……
背後から声をかけてきた男は、後ろから腕を回して私の眼の前にナイフを突き立てる
少しでも動けば刃先が眉間に触れる
「だーれだ。」
1度目より低い声で問いかけてくる
声の主が誰かなんて、ヒントがなくても分かる
間違いなく私は彼を知っている
臨也さん。
「やめてください。道端で刃物なんて冗談じゃない」
「昨日は帰ってくるなり驚いたなぁ。電気は付いてるのには居ないし、ファイルも何冊か落ちてるし…泥棒でも入ったのかと思ったよ。」
「あれ、なんなんですか」
「仕事の資料だよ」
「違う、それじゃない」
「首?」
「そう。」
淡々と続いていく会話の中で、私が怒りの感情を込めているのは彼に伝わっているのかな
本当は怒ってなんかない
いや、確かに多少は苛立ってるけど…
でも、そんなことよりも、彼を突き放さなきゃという思いが強い
突き放さなきゃ
ごめんなさい、もうあなたの所には戻れませんって言わなきゃ。
「ちょっと怪しいからってさ…」
「え…?」
「俺の気持ちも考えてよ…」
ポケットナイフを握る手に力が入るのが、見て分かった
「突然姿消してさ、俺本当に心配してたんだよ。
電話したのに…昨日何してたんだよ…」
何してたんだよ という言葉に、どう反応するのが正しいのか分からなかった
ただ、黙り込む。
「久々に1人で過ごした夜は、何だかとても薄寂しかった
何かが足りなかったんだ
もう寒さを感じる季節じゃないのに、久々に冷え込んだみたいに思えた
ねえ、?
俺には、君が必要らしい。」
『付き合ってくれないかな?』
それはあまりにもタイムリーだった
昨日静雄にも付き合いを申し込まれたばかりなのに…
まるで、それを知っているかのように。
“ 知っているかのように ”。