第14章 煙草の匂い
彼は私の頬を伝う涙を優しく拭って、壊れやすいものに触れるような、そんな手つきで私を抱きしめた
「泣くなよ」
頭上から聞こえる、落ち着く声
バーテン服から香る、煙草の匂い
「俺、本当は年上がタイプだし、最初会った時、お前臨也の服着てたからすげえ印象悪くてさ
でも話してみたらすげえいい奴で、純粋で可愛くて
臨也になんかされたら俺が守ってやりてえって思った。
臨也に関わるとろくな事がねえって知ってるからさ、
電話番号渡したけど一向に掛かってこなくて、ちょっと寂しいとか思ったりしてさ。
なあ、男って、好きな奴を守りたいって思うんだってよ
俺もお前のこと守りたいって思ったから、
だからその…好きってことだ
俺は本気だからな。」
左腕で肩を抱いて、右手で頭を優しく撫でてくれる
静雄さんの腕の中で話を聞いているうちに、すごく愛おしくなった
嬉しかったし、私のことをそんなに好きでいてくれている静雄さんが、私も好きだと思った
だらしなく垂れていた両腕は、ゆっくりと時間をかけて静雄さんの腰に回る
「なあ、ごめん。」
私を抱きしめたまま、突然謝る静雄さん
「どうしたんですか」
「お前は…俺の彼女ってことでいいんだよな」
「そうですよ」
私は微笑みながらそう答える
声に出してその事実を述べられると、なんだかすごく嬉しくて。
表情が見えていないと分かっていても、自然と笑顔になってしまう
「本当に好きな相手を、こうやって抱きしめてたらさ、やっぱり駄目だな」
「なにが?」
「付き合ってまだ全然経ってないって分かってる。けどさ、俺も一応男だから」
私はその言葉で大体を察する
「大丈夫ですよ。お互いが好きだって分かってるなら、いいんじゃないですか?」
「ごめんな。お前のこと大事にしたいって思ってるけど、どうしてもさ…」
「しょうがないじゃないですか。静雄さんは真摯な人だって分かってるし、大丈夫。」
そっか。という返事と同時に、彼が私を抱きしめる強さは少しだけ増した。
「抱いていいか?」
私も彼を強く抱きしめ、頷いた
「なあ、今からは敬語と“さん”付けやめろよ」
「ちょっと難しい……かな。」
そして私たちは、抱き合ったままゆっくりとベッドに身を沈めた