第9章 それと同じ頃、情報屋のオフィス
「俺は人間を愛してる」
大きな椅子に腰かけた青年が秘書に語りかける
「ええ、そうね。」
「人間の行動や発言、すごく興味があるんだ」
「そうね。」
「そういうのを揺さぶるのが俺は好き。
固着観念…人間と俺との間には、そんな言葉がぴったりだ
たまに見込みちがいな奴もいるけどね」
「…そうね。」
「愛してるから、いろんな姿を見たいと思う。
痛めつけて、操って苦しめて。
彼らの行動を…人間を、俯瞰するんだ。」
「そうね、貴方はそんな人間よ。」
「俺は人間を愛してる。同じようにも愛するよ」
少しばかりの沈黙。
臨也は大きな椅子の背もたれに体重をかける
「貴方が今持っている愛は、あの子に向けるべきものじゃないわ」
整頓していたファイルを全て棚に戻した波江は、体の向きを変えることなくそう告げた
「どうして」
波江の言葉を遮るように椅子ごと背を向け、新宿の夕焼けを眺める臨也
しかしすぐにまぶたを閉ざす
鋭利な言葉から目を背けたいと言わんばかりに。
「貴方の愛は間違っているからよ」
彼は滅多に見せない哀しげな表情をする
「俺は確かに、確実に、本気でを愛してると思う。
初め、出会った時から…一目見たときから何かを感じたんだ。
これを俺のものにすれば何かが起こるんじゃないか、ってね。
だから、他の人間に与える愛よりもっと深いものをあげる。
傷つけて、普段見ることのできない表情を見たいと思うのは……
それは、愛じゃないのかな」
「貴方の愛は、歪んでる」
「そうなのかな」
「それにしても、一目惚れだったのね。
貴方みたいな酷い性格の持ち主でも、可愛いっていう感情があるなんて…」
「やっぱり波江さんも、のこと可愛いと思うんだ」
「誠二には近づけないで頂戴ね。」
臨也は微笑む。
「分かってるよ。俺のものだから大丈夫。」