第7章 嫉妬
臨也さんに貰ったICカードで改札を出てしばらく歩くと、いつもの風景が見えてくる
通り過ぎ行く人達は通勤通学ラッシュで忙しそうにしてる
朝の眠い時間、足取りが軽いのは私くらいじゃないかな
イヤホンから聴こえてくるメロディと同じテンポで歩いて駅を出る
それは東京に来る前によく聴いてた曲
引っ越してからは新しい世界観を探して、毎日聴き慣れない曲ばかり聴いてた
でも今は違う
なんだか居場所を見つけたような、落ち着いたような、そんな気がして…
今の私は自分の居場所を見つけた
だから聴き慣れた曲を聴いてもいい気がした
視線を上げて歩いていると、信号を渡った先に特徴的な人を見つける
金髪のバーテンさん
私がいま一番話したいと思っていた人がそこにいる
声をかけるしかないと思った
ケータイの電源を軽く押して、まだ出勤まで40分あることを確認する
イヤホンを外すと、電車の音と人々の足音ばかりが聞こえてくる…
信号が青になった途端に私の足は彼へと向かう
「静雄さん!」
「おう…えっと…、だっけな。」
名前を覚えていてくれてた。
嬉しくてニコニコしてしまう
「どうしたんですか?こんなところで」
「俺だって出勤すんだ。仕事してっから。」
「バーですか?」
そう問いかけると、返事に少し間を置いた
「いいや、取り立て…」
「え?」
「バーテンダーではないな…」
と言うとなんともいえない笑みを見せた
釣られて私も微笑んでしまった
たわいもない会話。
臨也さんから聞いていた印象は怖い人(強い人)だったけど、
なんだかいい知り合いになれそうだなと思った。
でも次の瞬間、サングラスの奥に隠された目の色が変わった気がした
「おい……
その、首の痣、なんだよ…」
「ああ、これは臨也さんが…」
「…お前、臨也とどういう関係なんだよ…」
低く深い声
「臨也さんは私のことを大事にしてくれていて…
続きを言いかけた途端、苛立ちを込めた深いため息が聞こえてくる
「そんなもん見せられて、大事にしてくれてるって言葉しんじられっかよ
所詮利用されてんじゃねえかよ。結局は体目当てじゃねえかよ……なんでそれに気づかないんだよ…昨日言っただろ、あいつは…
「やめてください」
私の口から出たその言葉は、彼を沈黙させた
「ごめん…」