第1章 誰
「リヴァイ、少し街に行って来てくれないかな?」
「街?」
エルヴィンの執務室に書類を持ってきたリヴァイは突然言われた頼み事に眉間に皺を寄せながら聞き返した。
「君の大好きな紅茶の茶葉が無くなったから、リヴァイにも関係あるよ?」
「てめぇが行けばいいだろ」
「生憎、見ての通り仕事が山積みでね」
「それは俺も同じだ」
「あ~、リヴァイの好きな紅茶が飲みたいなぁ~」
「…分かった。
その代わり、てめぇの給料から差し引けよ」
「分かってるよ」
エルヴィンはいつもの優しい微笑みを見せるとリヴァイは踝を返して執務室を後にし、そのまま兵舎を出て歩いて街へと向かった。
調査兵団本部は他の兵団と比べて街から少し離れているが、ここ最近仕事に追われていた為、道中を歩いていると気分転換にもなった。
街に着くと行きつけの店へと入った。
茶葉専門の店で、種類が多く、買いに来る度に新しい茶葉が入荷されているので選ぶ楽しみも味わえる。
リヴァイはいつもの茶葉と新しく入荷された茶葉を買い店を後にすると、そのまま広場へと向かった。
広場と言っても少し小高い山の上にあり、あまり人が来ない為「人類最強の兵士」という肩書きを持つ有名なリヴァイにとっては視線を気にする事無く心が休まる場所でもあった。
到着するとやはり誰も居らず、一番景色の良い場所へ向かい、そのまま座った。
1人でこうしてのんびりするこの時間が唯一心が休まる時間だ。
深呼吸して芝生の匂いを感じながら目を瞑っているとふと背後に気配を感じ、思わず振り向くと少女がこちらを見ていた。
「誰だ?」
尋ねてみるも返答は無い。
(…迷子か?)
そう一瞬思ったが、ここまでの道は1本しか無い。
例え迷子だとしても引き返せばまた街に戻る事が出来る。
リヴァイは重い腰を上げて少女に近付くと、逃げる様子も無く少女はリヴァイをジッと見てきた。
「名前は何だ?」
もう1回尋ねたがやはり返答は無く、ただひたすらリヴァイを見ているだけだった。
まだここに居たい気持ちもあったが、仕事が残っている為兵舎に戻らなくてはならない。
「わりぃがそろそろ帰らなきゃいけねぇ。
もし連れを探しているなら元来た道を戻れ」
そう言って立ち去ろうとした時、裾を引っ張られる感触があり振り向くと少女がリヴァイの裾を引っ張って見つめてきていた。
