第24章 将軍は案外順応だ
『大切な育ての親を・・・・見殺しにしないで下さい。失ってからではもう遅い・・・・・だからこそ失う前に・・・・』
私達がそうだったように。
自然と私の頬には涙が流れ落ちる。
『失うと、もう二度と伝えられない、届かないんです。・・・喚いても、叫んでも・・・・届かないんです。・・・・そんな思い・・・・もう誰にも解ってほしくない・・・・』
そう言い、手を握り締めた。
『お願いです。どうか・・・・どうか・・・・あの男を救ってあげてください。・・・あなたの為にも・・・』
そしてもう一度頭を下げた。
涙が止まらない。堰を切ったように涙が溢れる。
もう二度と、あんな思いをしたくないのだ。
失いたくない。大切だから。
もう、見ているだけなんて・・・・・嫌だ。
茂「もうよい。頭を上げてくれ」
上様の声が聞こえ、私は頭を上げた。
すると、上様が悲しそうな顔をしていた。
茂「・・・・そなたも大切な人を・・・・失ったのか?」
私はその言葉に素直に話し始めた。
『上様は、寛政の大獄をご存知ですよね?』
茂「・・・・ああ・・・・」
『攘夷戦争・・・・私も桂や高杉と共に戦っていました。ちまたでは最後の攘夷志士(もののふ)と呼ばれていたようですが・・・・・そんなに大層なものではありません』
茂「・・・・そなたが・・・・攘夷志士」
『はい。私達が戦ってた理由は・・・・・この国を変える為でもなければ、天人を排除することでもなかった』
そうだ、私達はあの時、たった一つの目的に向かって進んでいたんだ。
『天に仇なした大罪人、悪逆無道の徒。名を吉田松陽。私達は・・・・私と桂、高杉、そして白夜叉は・・・・あの人の弟子でした。』
茂「!!」
『私達は・・・・先生をとり戻す為に剣を取ったのです。生きる術を、剣の使い方を、全てを教えてくれた先生を、ただただ私達は・・・・・とり戻したかった。それだけだった・・・・なのに・・・・』
それだけだった。それなのに・・・・
『私達は全てを失った。そして壊れていったんです。もう私達は二度と交わることのない道にバラけてしまった。もう二度と、一緒に笑う事など出来ないのです』
『昔に戻れたら・・・・ってよく考えます。どんなに楽しいだろう・・・・・でももう無理なんです。・・・・・上様には・・・・そんな思いを味わってほしくないのです』