第3章 あいつのために
家に帰ったら、いつもは真っ先に風呂に入る
でも今日はそれを後回しにする
タイを取ってテーブルに置き、
シャツの一番上のボタンを外す
そして、
壊れたストラップをポケットから出して眺めた
「次いつあいつに会えるか、わかんねぇんだよな…」
一目惚れしたやつにまた会って、
緊張せずに想いを伝えるなんて…
どんなに低い確率なんだろう
それに、あいつが俺を知っていたら…
いや、知っている感じでも無さそうだったが…
俺が街中のいろんなもんをぶっ飛ばす平和島静雄だと知っていて、
あんな可愛い笑顔見せる奴なんて、
そんなにいない…
いやでも、紐が切れるまで使い続けるようなストラップを拾われて、笑顔にならない奴は…
いないよな…
ああもう、なんだよあいつ…
あん時の笑顔思い出したらまた会いたくなっちまった
今日と同じ時間にあそこを通れば、
また会えるかもしんねぇよな…
いや、会わなくちゃいけない
壊しちまったストラップ、可愛くして返す…
可愛くして返す、なんてらしくないことを考えてる自分が恥ずかしくなって、髪をわしゃわしゃした
その日はいつもより長く風呂に浸かったし、
いつもより多めにリンス付けたし、
寝るのも遅くなった。
なかなか寝れなかった。
あと、その夜食べたプリンはいつもより甘ったるい気がした。
甘すぎたからコーヒーを無糖で飲んだら苦かった。