第3章 あいつのために
「これだよ、これ!」
俺が周囲の視線にどぎまぎしていると、
舞流が声をかけてきた
手に持っていたのは俺が探していたカニカン。
でも、
「これ、錆びてんじゃねぇの?」
九瑠璃がクスクス笑う
「もう!違うよ静雄さん!これがアンティークな感じで可愛いの!」
アンティーク…知らねぇな…なんだそれは…
と言いたかったが、口には出さなかった
その後も舞流は色々持ってくる
カニカンに付いている紐の色もたくさんあったし、
壊したハートのチャームの代わりにと、いろんなのを見せてくれた
それに対して九瑠璃が持ってきたのは一つだけ
黒い、細いリボン…
「これはどうすんだ?」
俺の手に渡されたけど、その使い道は分からない
九瑠璃が舞流に耳打ちをすると、舞流の目が輝いた
「私たちがついてきてきてよかったよ!」
と言い、二人で嬉しそうにニコニコしている
俺が不思議そうに見ていると二人は突然自分の首元に、手で∞マークを作った
「これだよ!静雄さんの蝶ネクタイ!」
「あ…クマに、だよな…?」
「ご名答!!!」
俺はクマのぬいぐるみに、黒のリボンが付いているのを想像した
可愛い……かもしれない……
その後も色々考えた挙句、
カニカン、短いチェーン、その先に付ける小さな花のチャーム、クマのぬいぐるみに付けるリボンを買った
チャームがたくさんあったのに花を選んだ理由は、
「その人を例えたらどんな感じだったの?」
と聞かれた時に、すぐ「花」と答えたからだ
「なるほどなるほど、よくアニメとか漫画であるようなもんですな〜
美しい人の周りには花が舞ってるみたいな!!
美人寄りのラブリーってとこですかねぇ?」
と、ニヤニヤされた…
商品が入った小さな袋を持って店を出ると、もう夕方だった
俺は双子に、
「ありがとうな、気をつけて帰れよ?」と言って軽く手を振った
九瑠璃も俺と同じくらい小さく手を振った
舞流は誰よりも大きく手を振った
さて、事務所にストラップ置いてきてるし、戻るか
この時間帯ならあの2人の仕事も終わってるだろ
俺、随分長い間うろうろしてたんだな…
今日はいろんな意味で充実してた
‘‘あいつ”のせいというか、おかげというか…
今日一日は全部あいつのために使った気がする。
あいつは俺のことなんて考えてねぇんだろうけどよ…