第3章 あいつのために
気分が変わると景色も変わると聞いたことがある
俺はそれを強く実感した
とりあえず相談しようと思い立って事務所に行こうとした時よりも、
アドバイスをもらって解決した今の方が、
なぜだか景色が明るく見える
でっかいスクリーンに映し出された幽の映画の予告も、すげえ輝いて見える
その場所から少し歩いたところに、幽の彼女のポスターがあった
2人は幸せなんだろう
あれだけ忙しくても、お互いの存在があるから頑張れてんだろうな
ロッタリアを通り過ぎたところで、ふと六条千景を4発殴った時のことを思い出した
「俺には看病してくれる女の子がいるんだぜ、羨ましいだろ」
と言われたこと
それをここでトムさんに話した。
「まあ正直羨ましかったっすけど」
とか言っちゃったよな、俺。
「トップアイドルの弟にツラはそっくりなんだから、そのうち可愛い彼女できるって」
なんて言われたっけなぁ
まあその直後に現れた可愛いヤツは茜だったんだけどな
‘‘可愛い彼女”か。
なんで俺はあいつの顔が浮かぶんだ…
ストラップの持ち主…
もしかして俺、あいつに惚れたのか
一目惚れってやつなのか
いや、俺がこんなにストラップを直そうと必死なのは、悪いことをしたからであって…
確かに可愛かったけど…
可愛かった。すげえ可愛かった、けど…
何考えてんだ…
とりあえずあれだ、ストラップを直さないと。
カニカン…だったかな
どこに行きゃあ売ってんだよ…カニカン…
「静雄さーーーーーん!!」
休日で人は多かったけど、
その声の主を見つけるのは簡単だった
前から走ってくる双子、
九瑠璃と舞流
「よう、何してんだ?」
「幽平さんの映画、見た帰りなんだ〜」
「……格……好……良…(かっこよかった…)」
ねー!!と顔を見合わせる双子。
こんなに無垢で純粋なのに、
あのノミ蟲が兄貴なのは不釣り合いすぎる…
「そうかそうか、なんか俺まで嬉しいぜ」
「静雄さんは何してるの?」
「んー…散歩ってところだ。」
それを言ってから、自分がカニカンを探していることを思い出す
現役の女子高生なら分かるんじゃないか…?
「カニカン、っつーのは、どこに行きゃあ売ってんだ?」
双子はまた顔を見合わせた
そしてしばらく考え事をしている様子だった