第3章 あいつのために
トム、ヴァローナ、静雄
3人で同じものに視線を向けていた
目線の先はテーブルの上に置かれたストラップ
紐があって、金具があって、リングが付いていて、
長いチェーンが2本
そこにぶら下がったハート型の金属プレート、
小さなクマのぬいぐるみ…
いかにも女の子が好きそうなストラップ
という感じがした
よっぽど気に入っていたんだろう、
静雄が拾ったときにはもう紐が切れていたのだから。
「金属系はもう終わりだな…」
「一部だけであれば新調することも可能ですが、
完全に修復するのは不可能です」
「だよなあ…」
先ほどまで気を遣っていたトムさんもヴァローナも、
さすがにここまで壊れているとフォローのしようがないらしい
「ただ、あれだよな」
小さなクマのぬいぐるみを指差したトムさんが話を進める
「これが布だったことは救いだぜ」
「そっすね…」
「肯定です」
また会話が止まる…
時計の針の音だけが聞こえてくる
なにか言わなきゃなと思いながら数分が経過する
長らくの沈黙の後で口を開いたのはトムさんだった
「紐も切れちまってることだしさ、
どうせならこのクマだけで新しいストラップにしてやりゃあいいんだよ」
トムさんそう言いながら背中を叩いてくる
ここ最近で一番の笑顔だった
「頭部に金属製のリングを通していた紐が付属
そこにカニカンを付ければストラップとして成立」
「ストラップの紐んところもどっか売ってるって、たぶん」
「なるほど…」
俺はタバコの火を灰皿に押し付けて消し、席を立った
「ちょっと気晴らし程度に歩いてきますわ」
「おう!ちょっと気も楽になったろうし、ゆっくりしてこいよ!」
「気をつけて」
軽く会釈をしてサングラスをかける
カニカン、だっけ。
見つけたら買ってくっか…