第3章 あいつのために
声をかけ手を差し出す俺、振り向いた女
心臓が壊れそうなほどバクバクした俺
…俺が女のストラップを壊したという事実
目の前の少し残念そうな顔、そして、俺を怖がった顔。
そんな顔されるのは慣れてっけど、なんか寂しかった
その場を去ってからしばらくしても、気持ちは落ち着かなかった
「おお静雄、そのストラップ、随分かわいいじゃねえか?」
そっちに目覚めたのか?と、トムさんが笑いかけてくる
「いや、そうじゃなくてこれ、女が持ってたやつなんすよ…」
「女?静雄の?お前いつの間に恋なんかしちゃってんだよお~」
「知らない女っす」
少し動揺したが、平然を装って返事をした
「そのストラップが損傷した経緯について、静雄先輩との問答を希望します」
10秒ほどの沈黙の後、俺がやっと口を開く
「ドキドキしちまってよ…
落としましたよって声、かけようとしたら、
振り向いた女が、なんつーか、その、あれだ、
すげえ可愛くて、ドキドキしちまって、、
茜みたいに子供じゃねぇし、
ヴァローナみたいに強そうじゃねぇし、
なんか、いつも話す女とは全然ちげぇし
なんか、華奢でさ、取り乱しちまって、
とにかく可愛いって思ってさ、
近づいてきたから、恥ずかしくて、
手に力が入っちまって、こうなって…
俺、たぶんそいつビビらせちまって…」
《…?(笑)》
トムとヴァローナ、静雄をよく知る2人の間に漂う、あたたかい雰囲気
「静雄、お前…」
「すんません、俺、最低っす」
「いやそうじゃなくてさ」
トムさんが笑顔だ
怒ってない
一方ヴァローナは…
怖ぇ顔…
「…怒ってんのか?」
真顔でこっちを向くヴァローナ
反射的に姿勢を正す
…
「否定です。ストラップの修復を補助します」
「そうだな、ストラップ直して、またその女んとこ持ってけよ」
「トムさん…ヴァローナ…」
また会えるかどうかも分かんねぇけど…
あいつが池袋のヤツなのかも分かんねぇし、会っても逃げられるかもしんねぇけど…
あいつのために…
「直せるんなら、直してみっか…」
できる限り直して、謝んなきゃな…
女にあんな顔させるのは俺の趣味に合わねえ
「ヴァローナ、お前物知りだから、金属の溶接とかできんじゃねぇの?」
「否定します」
「だよなあ」